Arcadia | ナノ
しかし余裕をかましたはいいものの、なにか計画があるわけでもない。だが計画がないからといって、諦めて餌食になってやるつもりもない。睨み付けて威嚇する俺に、男たちは愉快そうに笑った。
無駄な悪足掻きだって?いや、今は無理でも必ずチャンスは来るはずだ。悪いな、俺は諦めるという言葉が一番嫌いなんだ―――そう、崩してやるシュミレーションをし始めた時だった。
「は?ちょ、まじか、ん――――…っ!!」
最悪だ最悪だ最悪だ…!
誰か嘘だと言ってくれ、いちなり顔が近付いてきたと思ったら、厚ぼったい唇が俺のに押し付けられているこの状況。空いている手が俺の顎を無理矢理抉じ開ける。間髪いれずに口内へと侵入してきた舌に悪寒が走った。抵抗しようと力を入れても、びくともしない。
当たり前か、ここ数週間、馬鹿みたいに不摂生しかしてこなかったんだから。
寝不足で、体力なくて、酸欠で。
「(やべぇ、意識飛びそう―――…)」
「あっれぇー?もう抵抗しないのー?」
「やっぱ来るもの拒まずは本当なんだな」
「じゃあこれ意味なくねー?」
「―――…っは、ぁっ!」
やっと解放され、必死に酸素を求めて荒い息をつく。
意志とは関係なしに激しく上下する胸。
こんな奴らに翻弄されているのが悔しくて、歯を食いしばった。
「っ、やべぇ会長、超色っぽー」
「俺全然イケるわー、早くヤっちまおうぜ」
「意味なくても気持ちよけりゃ関係ねぇか!」
「ざっけんな…!触んじゃねぇよっ!!」
頭上で繰り広げられる下卑な会話に振り上げた腕は、いとも簡単に捕まり、側に立っていた奴にソファへと縫い止められた。はいはい危ないですよぉという小馬鹿にした声に、身体が一気に熱くなる。
どうして俺が、こんな奴らに良いようにされなければならないんだ…!!
「いい加減にしろ!!離せアホ共が!!!」
「ちょっと会長細過ぎない?全然力出てないよぉ」
「でもま、その方がこちらとしてはヤりやすいけどね。あ、俺らのためっすかぁ?」
「ふざけんじゃ……っ!」
こいつら、どこまで俺を、この俺を、馬鹿にしてやがる!!
しかし怒鳴ろうと口を開いたところでまた唇を奪われる。ドロリ、と粘り気のある液体が口内に広がって眉を顰めた。
得体の知れない液体――こんな時に飲まされるものなんて大体決まっているが――の何とも甘ったるい味が、酷く不快で。簡単に飲ませられてやるものかと口の中で必死に抵抗していると、呼吸を妨げるように鼻を摘ままれた。さらに焦れたたように膝で下半身を圧迫されて、不覚にもビクつく。
そして、
「―――っ!」
コクリと、喉が動くのを感じた。
「はいごちでしたぁー」
一体何を飲まされたのか――――いや、なんにしろ最悪だ。
睡眠薬か、神経麻痺系か、それとも催淫薬か……どれにしたって、これから俺が醜態を晒すことには変わりない。
だがそんなこと、あってはならないんだ。
天下の生徒会長様が、
そして何よりこの瀬戸拓巳が、
今この時に、醜態を、晒すなど―――…
何故か体の上から退いた重い物体。
間髪入れずに飛び起きてさっと視線を巡らせば、首謀者である親衛隊は確かにいなくなっていて。これで俺は自分のことだけを考えて逃げればいい、と知らず息を吐いていた。俺が逃げた後のこいつらの性欲が、あいつに向かわなくて済む…なんて無意識に考えていた自分の甘さに、思わず苦笑いが漏れる。
「余裕っすね会長、逃げなくて良いんすかぁ?」
「あ、もしかして待ってます?」
「気付かなくってすんませんねぇ」
「そんじゃ遠慮なくー!」
すると、俺が笑ったことが癇に触ったらしい男達が行動を再開した。どうやら捕まえた獲物を一度逃がして、もう一回追いつめようということだったらしい、なんて悪趣味な。だが迫ってきているアホ共は、それが過ちであったことに気付いてない。
ムカつくことに、力では全く適わなかった、それは事実だが。
一度解放されれば―――こちらのものだ。
「言われなくとも―――…」
一歩目で一気に懐に飛び込んで、鳩尾に渾身の一撃を見舞う。声も出さずに崩れ落ちる仲間に、ニヤニヤと笑っていた顔が強張るのが見えた。そのまま何かを言う間も与えずに、流れるように2人目を蹴り飛ばす。派手な音を立てて机に突っ込んだのを見届けながら、あいつらの声が聞こえた気がして口角が上がった。
『拓ちゃんは可愛いんだから、強くならなきゃ!』
『センスあるし、スピードとタイミングさえ掴めば拓は平気だろ』
さっきまでほとんど無抵抗だったはずの獲物の、あまりにも急な、そしてあまりにも強力な抵抗に呆然とする残り2人。
ペロリ、と唇を舐めあげた。
「逃げるさ、てめぇらぶちのめしてからな」
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