Arcadia | ナノ
なるほどそういうことか。
その“噂”ってのはきっと、“誰か”が故意に流したものだ。
「ちょっと交渉しましょうか、会長様?」
「交渉?俺とお前が?」
「えぇ、僕とですよ。そりゃ普段なら交渉できるような立場じゃないですけど、今は状況が違うでしょう?」
そう言って、勝ち誇ったように笑うそいつを睨み付ける。
交渉できるような立場じゃないと思っている…ということはやはり、こいつは幹部じゃないのか。それに宏紀の親衛隊とではなくこいつ自身との交渉ということは、これはこいつの単独行動か?
「…これは、てめぇらの総意か?」
「てめぇら?」
「宏紀の親衛隊だろう、お前は」
「…―――隊はっ…隊は動かないっ…!だから僕がやるんだ、一条様のために…」
爛々と輝く目。どこか恐ろしいともいえるその表情だというのに、俺は笑ってしまいたくなった。
ほら宏紀、ちゃんといるじゃねぇかよ、お前だけを見てくれる人間が。少々いきすぎていたとしても、お前を至高と考えていたとしても。それとも親衛隊は別だなんて言うんじゃないだろうな?確かに俺のせいで数は減ったのかもしれないが、お前を俺とセットでは見ていない人間なんざ見ようと思えば沢山いるさ。
じゃなきゃ、俺がこんな目に遭うわけがねぇだろう。
「貴方を追い払えば、一条様は僕を見てくださる!」
「…それで?交渉って?」
「すぐに会長職から降りてください。そうすれば何もしやしませんよ」
「おいおい、そりゃ交渉じゃなくて脅迫っつーんだよ」
そう呆れたように呟いた時、ポケットを探られているのを感じて視線を向ける。すると、手持ち無沙汰だった3人の1人がスマホを取り出して得意気に電源を落としていた。これでGPSで探知できねぇだろとニヤニヤしているそいつに冷めた笑みを向けてやる。
ちょっとは頭が使えるやつがいて良かったな、あぁまったく、本当に助かるよ。
「それで?降りる気は?」
「あぁ?あるわけねぇだろ、一昨日来やがれ」
会長職を降りるつもりなんてさらさらないね。それに俺が降りたからってなんも解決なんざしねぇよ。あいつは俺の辞任じゃなくて失脚を欲しがっているんだから。
いかに無様に倒れて人望を失うか…が、あいつにとっては大きな問題なんだろうから。
「本当にこの状況を理解しているのですか?その上で断ると?」
「俺は今の状況が理解できないほど馬鹿じゃあねぇよ」
ニヤリと口角を上げて見据えてやれば、そいつは仕方ないですね…とため息を吐いた。ついでわざとらしく憐れみを帯びた目でこちらを見ながら、徐に他の男に指示を出す。
「じゃあ約束通り好きなようにしていいよ、反抗する気がなくなるようにしてあげて」
それを聞き、忠犬宜しくマテをしていた男達が、下品な笑みを口元に浮かべながら動き出す。気持ち悪ぃな、ヘドが出るぜ。
それじゃあ一時間後に戻ってくるから、そう言って踵を返す親衛隊に、視線は俺から外さないまま、俺を拘束している奴が声をかけた。
「なんだ、見ていかねぇのか?面白いのに」
「はは、僕にゲテモノ喰いの趣味はないよ」
―――ゲテモノで悪かったな。
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