Arcadia | ナノ
峰岸との通話を切り生徒会室へと向かう途中、特別棟まで戻ってきた俺の耳に、ガン、と何かが壁にぶつかる物音が飛び込んできた。次いで聞こえる、言い争う複数の声。
視線を巡らして音の出所を探せば、扉が半開きになっている部屋が見つかった。音をたてずにそっと近づいて中を覗けば案の定、華奢な生徒一人を囲んで体格のいい奴らが数人。今にもなにかが始まる雰囲気だ。
「おい、なにしてる」
生徒会室も風紀委員室もある。おまけに下には教員室だってある。そんな特別棟でこんなことをやらかすなんざ、舐めた真似してくれんじゃねぇの。そう苛つきながら声をかければ、想定外の第三者の介入に、全員が驚いて勢いよくこちらを振り向く。日曜なら人がいないと思ったか?残念だがこの棟だけは他のとこと違って曜日関係なく人はわんさかいるぜ。
こうして安易な考えが元で捕まる人間は少なくないはずなのに、しかし残念ながら、この棟でやらかそうとする輩は一向に減らないという。現に俺がここでこんな場面に出くわすのは今日が初めてじゃない。確かに役持ちやらなんやらが出入りするこの棟はターゲットが多いのかもしれないが、その場で犯行に及ぼうとするなんて浅はかとしか言いようがないと思うんだがな。
「会長…!」
「なんでここに!?」
「お前らがなにしていたのか聞いてるんだ。それとももう現行犯で捕まりたいのか?なら生徒手帳を頂こう」
カツリ、手の平を差し出しながら近づいていく。じりじりと俺を避けるように広がる男達の輪。すると、ちぎれた輪の間から、ターゲットにされていた生徒が飛び出してきた。
「会長様!」
「っと!あれ、お前は―――…」
宏紀との話し合いも一応何事もなく終わって、峰岸にも我が儘を聞いてもらえた。すべてが、上手くいっていた。
だからきっと―――油断、していたんだ。
縺れるように転がるように輪の中心から逃げてきた生徒に、しなだれるように寄り掛かられる。それをなんとか受け止めたがしかし、あれ、こいつどこかで…と頭が検索をかけ始めた瞬間、力任せに突き飛ばされて。気がつけば、いつの間にかソファの上で跳ねていた身体。
詰まる息に、騙された、と思った時にはすでにそれは始まっていた。
「失礼しますよぉ、会長様ー」
「ーっ!」
さっきまで尻込みしていたはずのゴツい男が腹の上に乗り上げてきて、急な圧迫に思わず呻く。両腕をソファへと縫いとめられ、腹にまで乗られてしまえば身動きなど取れなくなってしまう。
ふざけんな、こいつら一体どういうつもりだ…!
ギッと睨んでみても状況は変わらない、むしろ喜ばせるだけだと、そうわかっていても睨まずにはいられない。怖ぁーい、とにたにた笑う奴らは4人。
いや、あいつを含めれば5人、か。
「すげぇ本当にかかったぜ」
「簡単だな〜実は脳ミソ腐ってんじゃねぇの、会長?」
「てめぇら…!どうなるかわかってんだろうな!!」
「んな凄まれてもなぁ、俺たちは頼まれただけだしぃ?」
ねぇ?と促すように動いた視線の先にいたのは、先程襲われそうになっていた華奢な生徒。にっこりと笑いながら愉快げにこちらを見ていた。
そしてここにきて脳内検索が結果を弾き出す。そうだ―――彼は、宏紀の親衛隊だったはず。確か幹部ではなかったと記憶しているが。
「ふふ、噂は本当でしたね」
「噂…?」
「日曜の昼頃に貴方がここを一人で通るという噂ですよ」
「はぁ?」
いやいやいや、なんだその変な噂は。意味わかんねぇだろ、なんだってそんなピンポイントな―――…
『…すぐに後悔することになるよ』
ふと思い出す、先の会話の一節。
かちり、とピースの填まる音がした。
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