Arcadia | ナノ
―――11時に第三会議室で。
ただそれだけ、そっけなく書かれたメールを再度見直す。
確認したあとメールを閉じて、ついでに少し弄ってから今度こそ完全に画面を消した。
顔を上げれば、扉の斜め上にその部屋の名称が刻まれたプレートが突き出しているのが目に入る。ぐっと腹に力を入れて、深呼吸。考えている暇なんてない。そんな時間も惜しい。
(さぁ、話を聞かせてもらおうじゃねぇの)
焦げ茶色のプレートに金色で刻まれていたのは―――第三会議室、その文字だった。
***
あの後、予定通り役員と話をしようとした俺は、高瀬から思わぬ話を聞くことになった。
『あの人達なら、瀬奈連れて町にいきましたけど』
本来なら生徒会長と理事長の捺印が必要な外出許可証。それを、なんとあいつらは自分達の分プラス篠崎の分の五枚持っていたらしい。しかし当然のごとく高瀬の分まで用意してくれるほどあいつらは寛大じゃなかったため、高瀬は渋々帰ってきたのだと言う。
高瀬に関してはまぁ残念だったなとしか言いようがないのだが、問題はそれよりも、あいつらが外出許可証を持っていたことである。確かに会長の捺印は他の役員の代理印でも許可がでることはある。但しそれは、不在などの何らかの理由で会長の捺印がもらえないが、どうしても外出しなければならないような緊急の用事があるときに限られる。
何を理由にしたのか知らないが、俺はずっと学校にいたのだから本来は俺の印鑑じゃなきゃならないはずだ。それなのに、知っていて敢えてだったのか、それとも事実確認を怠ったのか、理事長はあいつらに許可を与えたらしい。
身内の贔屓目―――溺愛ゆえか。
それが事実にせよ事実でないにせよ、そう思わせてしまうなんて、あの理事長らしくないミスだ。もしも本当に、こんなミスを犯してしまう程に理事長が篠崎を溺愛していたとしたら、それはそれは面倒くさいことになる。あの人は、馬鹿みたいに頭が切れる。敵には回したくない男だ。
そんなこんなで役員達と結局会うことの出来なかった俺は、とりあえず昨日は一度退くことにして、宏紀に会って話がしたいという内容のメールを送ったのだ。今までのメールや電話は全て無視されていたし、今回も無視される前提でとりあえず送ったそれ。しかし意外にもその次の日、つまり今日になって返信が来たのだ。
11時に、第三会議室。
第三会議室は第一棟の一階にある部屋のことで、普段なら第一棟の他の教室を使用する生徒達で賑わっているのだが、今日は生憎日曜日。特別棟や第二棟などと違って各HRの教室しかない第一棟は、生徒の影など皆無となる。
何か仕掛けてくるのには絶好の場所。
きっとあいつらは、俺が一人で行かなければ何も話してはくれないだろう。だけど、リスクを侵すわけにはいかない。
そこで峰岸に連絡したところ、風紀をこっそりと潜伏させてくれると言う。気付かれる可能性もあるが、その時はその時だ。そもそも返ってこないだろうと思っていた返信から思わぬ機会が生まれたのだから、何か得られたら儲けものなのだ。
堂々と張られた見え透いた罠。俺も舐められたもんだと思ったが、何か糸口が見つかるのなら、罠に嵌まりに行ってやっても良いだろう。
いいぜ、誘き寄せられてやろうじゃねぇの。
prev
|
back
|
next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -