Arcadia | ナノ
「…」
唐突に、ふっと長谷が扉の方を振り返る。次いで眉間にしわを寄せた顔でこちらを向いた。
「…同室者が帰ってきたようです、俺が少し足止めしとくんで会長は俺の部屋に入っていてください」
「は?なんで、」
「なんでもです!」
早く行ってください!と険しい顔で捲し立てながら長谷は玄関の方へ向かってしまった。なんで隠れなきゃならないのかよくわからないが長谷はきっと俺に不利になるようなことはしない。
テーブルに付いていた手に力を込めた。
「おい、行くぞ中谷」
「あ、あのっ!会長!」
「あ?なんだ?」
立ち上がって長谷の部屋へ行こうとすると、手首を掴まれて。何事かと振り返ると、中谷の困ったような必死な顔が目に入った。
「…どうした?」
「えっと、こんなこと俺が言うことじゃないかも知れないですけど…瀬奈のこと、あんまり責めないでやって下さい。確かにあいつ、突っ走りやすいし周り見えてないとこあるけど……でも、でもやっぱ、良い奴なんです…!」
「あぁ…そうか」
篠崎を庇おうとする中谷。だけど制裁を受けることになったのは篠崎のせいでもある。それなのに、それをカバーして有り余る―――それほどに、中谷が篠崎がもらったものは大きかったということか。
―――あぁ、すげぇな。ただ純粋に、すごいと思う。
俺は、それだけのものを誰かに与えられたことがあるだろうか。こうやって、もらった分だけ返したくなるような、そんなものを。
二人の関係が羨ましい。憧れているんだと思う。なんだか気分がよくて、中谷の頭を撫でようと伸びた腕は―――しかし、突如乱入してきた声に空中で停止した。
「会長!?なんであんたがここに…っ!」
驚いて振り返れば、そこにいたのは長谷ではなく。
「……高瀬(タカセ)…?」
立っていたのは、1年にしてバスケ部エースの高瀬大毅(タカセ ダイキ)。爽やかスポーツ少年なイケメンである高瀬には、当然親衛隊が存在する。
これは流石に予想外の展開。だって彼は―――篠崎に惚れて引っ付いている集団の一人だったはずだ。
「なんで、え?会長がここで何して…」
「騒がしくてすみません会長、俺の同室者です」
テンパる高瀬を見事にスルーして、長谷が俺に回答をくれる。
なるほど、こいつが噂の寝るとき以外帰ってこない同室者か。こいつが現れた瞬間、だろうなとは思ったが。あぁそうか、さっきの長谷と中谷の妙なやりとりはこれだったか。
「あー…悪いな高瀬、部屋を借りた」
「一体この面子で何を…っ!また瀬奈の話なのか!?」
「あ?」
何をそういきり立つ?まるで親の仇を見るような目でこちらを見てくる高瀬。と、思ったらすぐに、俺と高瀬の間に長谷が立ち塞がった。
「用を済ませて早く戻ったらどうだ?愛しい篠崎が誰かにとられるかもしれないだろ」
「馬鹿言うな、お前と会長と中谷なんて瀬奈くらいしか接点ないだろ!?バレバレなんだよ!」
へぇ、賢いじゃねぇか。せっかく途中まであってるってのに、発想が可笑しいところが残念だが。
しかし長谷邪魔だよおい。でけぇんだよくそぅ。
「会長さんさ、俺あんたら生徒会がどうごちゃごちゃしてようが興味ないっすけど、その中に瀬奈を巻き込むのは許さないっすから」
「は?巻き込むだと?」
「そいつと中谷と組んだって何も…」
「ちげぇだろ、一番巻き込まれてんのは風紀と中谷だろうがよ」
何言ってんだこいつは、聞き捨てならねぇ。長谷を押し退けてそう言ってやるも、高瀬は意味がわからないという顔でこちらを見ていた。
…ちょっと待て、本気でわからないのか?こいつは本気で、俺たちが篠崎に何かしようと企んでいると思っているのか…?
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