Arcadia | ナノ
「あ、会長!」
「おはよう、休みなのに悪いな中谷」
「や、いえ、おはようございます」
「こいつは風紀委員の長谷。俺の護衛…らしい」
こくりと神妙に頷く長谷に、中谷はぱちぱちと目を瞬いた。そうだよな、こんなでかい男がただ学生寮に行くと言うだけでこんな立派な護衛がつくなんて変だよな。こいつの感覚もなかなかに正常らしい。確か中学部からの入学だったか。
しかしこの中谷という男、何から何まで平均的である。
身長は170程度で中肉中背、顔の造形も悪くはないが正直なんとなく華がない。焦げ茶色の髪は、染めようとしたが土壇場でチキッて明るくはできなかった結果に思える。
目立つことはない普通の生徒。おそらく本人も平穏を願っているのだろう。きっと今回のようなことがなければ決して制裁なんかされるような人間ではない。そうではないがしかし、親衛隊がいるわけでなく、風紀から保護対象になるような人間でもない彼は、一度標的になれば格好の餌食だ。
「篠崎はどうした?というかなんで外に…」
「あ、瀬奈は中にいます。役員の方々が来たんで俺は抜けてきましたけど」
「は?あいつらが?」
「他にも同学年が二人いるんですけどね、俺あの空間苦手で…」
はは…と苦笑いをする中谷に、眉間にしわが寄る。
授業以外ではずっと篠崎に引っ付いているというのは本当らしい。そして同室者であるはずの中谷は邪魔者扱いして追い出す、か。しかも中谷はてめぇらの親衛隊から制裁を受けているというのに。どんだけ厚かましいんだあいつらは。
思わずはぁ、と溜め息が漏れた。
「会長、とりあえずどこかに移動しましょう。どこで親衛隊に見られるかわかりませんし」
そう言う長谷に、そうだなと頷く。
役員共に会って話をするのはとりあえず後だ。今日の第一目的は篠崎と中谷に話を聞くことなのだから。あいつらが加わればきっと色々口を出してきて話がややこしくなるだろうから、まだ会わない方が良いだろう。
「じゃあ中谷、篠崎を呼んできてくれないか?」
「あ、瀬奈は来ません。あいつ、会長にお話しすることはないって聞かなくて」
「…そうか」
「あ、いやでも別に会長に話したくないとかそういうんじゃなくて、副会長達の足止めもあって、それでだから会長に反抗してるってわけじゃ…!」
眉をしずめる俺に何を思ったのか、わたわたと両手を振りながら篠崎を庇う中谷。なんだ、篠崎のやつ、好かれてんじゃねぇか。中谷が制裁のターゲットになったのは篠崎のせいでもあるんだから二人の関係は微妙なのかと思ったが、そういうわけじゃないらしい。
「大丈夫だ、わかってるよ。昨日話してあいつの性格なんとなくわかったから」
「あ、そ、そうですか。そうですよね、よかった、はは…」
「なぁ長谷、ここから一番近くて使えるのは第7応接室だよな」
「えぇ、そうですね。ただ…実はそこが自分の部屋なんです。あんなところでよければ、応接室まで行くよりもずっと近いしどうでしょう?」
そこ、と長谷が指さしたのは、篠崎中谷部屋の二つ隣。
確かに近い。確かに近いが長谷、お前そんだけ部屋近いのに名前しか知らないってそれどうなんだ。コミュ障なのかお前は。
「いいのか?同室者は?」
「大丈夫ですよ、あいつが部屋にいるのなんて寝る時だけですから」
ふん、と長谷が鼻で笑うのに、中谷が苦笑いをする。なんなんだ、俺にはよくわからないが何かあるらしい。
中谷と喋るのが初めてなのは俺も長谷も一緒だってのに、この無駄な疎外感は頂けない。近所だからわかる何かなのか?コミュ障のくせに。まぁ仲良いなら仲良いで、頼みたいことがあるから構わないんだが。
「それじゃあお言葉に甘えようか中谷」
こくりと中谷が頷くのを確認してから、三人で長谷の部屋へと向かった。
***
「ふむ…注意勧告は数えきれない程で、手を出されそうになったことは二回、か」
「手を出されるようになったのはつい最近からですけど。それに瀬奈が全部守ってくれてます」
「篠崎が?」
思わぬ言葉に聞き返すと、中谷はこくこくと激しく頷いた。
守られるなんて男として恥ずかしいですけど、と苦笑いする中谷に首をふる。誰しも得手不得手はあるものだ。一対多数で打ち負かせるという方が特殊なだけで、恥じることなど何もない。
それに何より、そんなこと言われたら、護衛がついてる俺の立場がないだろうが。
「見かけによらず腕っぷしが強いんだな篠崎は」
「あはは…俺も初めて見たときは驚きましたよ。喧嘩する姿が綺麗だと思うなんて思ってもみませんでした」
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