Arcadia | ナノ
「なぁ長谷(ハセ)、お前なんで風紀に入ったんだ?」
土曜日。
俺と風紀委員一年の長谷孝也(ハセ タカヤ)は、特別棟から寮へ向かって歩いていた。なぜ長谷と一緒なのかというと、桜庭を返しに風紀に出向いたら、引き替えにこいつを護衛としてもらったからだ。ちなみに桜庭は風紀のブレーンでまるっきりインドアなので、護衛には向いてないらしい。つーか護衛って…心配してくれてるのはわかるが流石にやり過ぎだろ。
180ある俺よりも高い身長に、硬派だが爽やかでもあるイケメン。風紀一年で一番優秀だとか。峰岸のお墨付き。
「あれ、委員長から聞いてませんか?」
「いや」
「そうですか…。あー…実は自分、会長のファンなんです」
「ふぁ…え、まじ…?」
思わぬ告白に目を見開く。そんな俺の顔を見て、精悍な顔がにこりと笑った。
「最初は親衛隊に入ろうかと思ってたんですけど、あのノリについていけなくて。どうしようか悩んでいた時に風紀からの勧誘があったんで、風紀に入ることにしたんです」
「そ、そうなのか…。だけど、なんで敢えての風紀?」
「なんで…そうですね、自分はあなたを持て囃すんじゃなくて、お守りしたいと思ったから」
真剣な顔。直球な言葉。
これで赤面するなという方が無理じゃないか。
「あぁでも安心してください、恋愛感情とかじゃなくて憧れですから。男惚れ…ってやつですか?」
「そうか…でもお前の気持ちはありがたいが、俺は守られるなんて柄じゃない」
「わかってますよ、あなたがそんな人間じゃないことくらい」
「だったら、」
「だから直接は会わないようにしてたんです。この学園の治安を少しでも改善して、それで会長であるあなたの負担が僅かでも減れば満足だから」
「お前な、そんな台詞さらっと…!」
「ったく、それをあの俺様と狐め、余計なことをしくさりやがって」
突然ふっと顔を背けて暴言を吐く長谷の頬がうっすら色づいていて、一瞬呆けたあとなんだか笑ってしまった。
こんなくっさい台詞を臆面もなく言ってのける神経図太い人間なのかと思ったが、そういうわけじゃないらしい。俺が笑ったのに気づいてますます赤くなる後輩が、初々しいくて微笑ましい。
あぁ、峰岸と桜庭がニヤニヤしてたのはこのせいか。しかし俺様と狐って的確すぎて笑える。
「とにかく、何があっても会長をお守りしますから。安心して好きなように行動してください」
きりりと顔を引き締める長谷。純粋に先輩として慕ってくれる後輩なんて、この学園入ってから初めてかもしれない。
先輩風を吹かす、なんて言うけれど、高1の内から親衛隊なるものが出来てなんだかよくわからない内に崇められていた俺には無縁の言葉。
だからか、なんだか無性に嬉しくて。
「はっ、ありがとな」
そう応えた俺の声は、いつもより幾分浮かれていた。
***
休みだからか10時だというのにまだ静かな寮を二人で進む。柔らかなカーペットが吸収するため自分等の足音さえしない。
1年の部屋は二階、2年の部屋は三階、3年の部屋は四階、そして役もちの部屋は専用エレベーターを使ってしか行けない六階。一階は管理室やらコンビニやらが入っていて、間の五階には寮食堂とその他様々な店―――美容院や病院などが入っている。
俺たちが今いるのは当然二階。篠崎たちの部屋への最後の角を曲がると、一番奥の部屋の前に誰かが立っているのが見えた。
「中谷亮…?」
俺より先に中谷の名を呟いた長谷。俺の視線に気づいてこちらを向く長谷の顔は、当然のことながら下向いている。くそ、背が高ぇ。
「知り合いか?」
「いや、委員長と副委員長の話を聞き齧ったときに名前が出てたんで調べてただけです。会長はあいつに会いに?」
「あぁそうだ、行くぞ」
こくりと頷きながら、長谷は周りにも目を光らせているのがわかる。与えられた仕事だけでなく、自ら率先して行動を起こす。
なるほど、確かに優秀だ。
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