Arcadia | ナノ
「しかしビビった。お前もっとわけわかんねぇ奴かと思ってたわ、噂ってのは怖ぇのな」
「………それこっちの台詞なんだけど」
「あ?なんか言ったか?」
「いーえー、なんでもないっす」
ひらひらと手を振ってそっぽを向く転入生、基篠崎に首を傾げる。
なんだこいつ、ブツブツなんか呟いてるけど頭でも打ったのか?だがまぁとりあえず、それを指摘する前に俺はやらなきゃならねぇことがある。
「…おい、篠崎」
「はい?」
「悪かったな」
こちらを向いたマリモ頭に向かって、頭を下げる。
途端に、は?ちょっと、え?とテンパって周りをキョロキョロ見回し始めた篠崎に苦笑い。そりゃ俺に頭下げられなんかしたら制裁もんだからな、お前もこの学園の仕組みちゃんとわかってきてんじゃねぇか。だが安心しろ、俺はこんなとこ見られるようなへましねぇから。
「転入早々うちの馬鹿どもが迷惑かけたな。俺の責任だ、悪かった」
「それは…」
「だけど悪い、あいつらをお前から引き剥がすのにもうちょいかかりそうだ。情けねぇことに仕事の方で手一杯でな、なかなか根気強く説教に行くわけにもいかねぇ」
ガリガリと頭を掻くと、篠崎が困ったように(多分)俺を見た。
情けねぇな。俺もだが、こんな風に言われても否定も反論もできない生徒会全体が情けなくて仕方ない。
「絶対俺が何とかするから。悪ぃがもうちょっとだけ我慢してくれ」
「なんでそんな…」
「ここだってちょっと特殊だが、高校には違いねぇんだ。今のお前にとっては面倒臭い場所でしかないかもしれねぇけど、本来はもっとずっと楽しい場所だから」
戸惑いながら俺を見る篠崎。
やっぱり振り回してて申し訳ないなぁと思う。早くこの後輩を楽しませてやりたい。ここが不愉快な場所だという思い出にしかならないのは嫌だから。
高校なんてもんは楽しんでなんぼ。楽しまなきゃ損だろう?
「お前もきっと気に入るよ。だからもうちょい待っててな」
マリモ頭に手を乗せて撫でてやりながら、自然と頬が緩んだ。
まったく俺は、一体いつから変な風に考えるようになってたんだか。1人でいると、偏った思考に走りがちだ。しかも俺は、自分が直接見聞きしたものではなくて、他人から聞いた評価ばかりで判断していた。それは、人の上に立つ人間として最低な行為じゃないのか?
風紀には十分情けなさを露呈しているわけだが、共に学園運営を別つ者として、彼らにはこれ以上情けない姿を見せるわけにはいかない。そんな気持ちが先行して、どうしても見栄をはってしまう。
だから篠崎のようにはっきりとものを言ってくれる第三者は、きっと俺にとってすごく大切な存在だ。
「そうだ篠崎、今日の放課後は暇か?」
「う…今日っすか?」
「あぁ、お前と中谷に話を聞きたい」
「亮も?」
唐突に話題を変えた俺に瞑目していた篠崎が、中谷の名を聞いて目付きを鋭くした。どうやら俺の目的に気づいたらしい。危機感はないが自覚はあるようだ。
「あー…申し訳ないんすけど、俺も亮も今日は先約があるんすよ」
「先約?そうか…俺が話にいく理由はわかってるよな?」
「わかってます、けど…」
「いや、先約があんならしかたねぇし、わかってるならいい。自覚なしなのは困るけどな。ただ、なるべく早く話が聞きたい」
「あ、じゃあ明日なら大丈夫です」
明日は土曜日だが部屋にいる予定だからいつでもいいと言う篠崎に頷く。いつでもいいとは言ってくれてるが、こいつらの1日を潰すつもりはない。午前中に済ませるべきだろう。
「9時に行っても大丈夫か?」
「多分寝てると思いますよ」
「じゃあ10時な、せめてそれくらいには起きとけ。さて…あぁ悪ぃ、せっかく授業出ろって言ってくれたがそれはまだ無理だ」
「え、いや別に…」
「あとそうだ、あいつらから逃げたいときは風紀を頼れ。俺が話通しといてやるから」
生徒会室と言いたいところだが、部外者は長時間入れられないことになっているから無理だ。と言うか生徒会室には当然のようにあいつらも入れるわけだし。…まぁ、近寄りたがらないという点ではある意味一番見つかりにくいかもしれないが。
俺の部屋には俺がいる確率が低すぎる上、そもそも俺の部屋なんか嫌だろう。その点風紀室ならいつだって誰かしら待機してることになってるし、匿うための部屋が仮眠室以外に作ってあるから問題ないだろう。
「じゃあ明日な。音楽室はあっちの第二棟入って正面だ、もう迷うなよ」
「かいちょ、瀬戸先輩!」
「ん?」
何故だか役職名から名前に呼び変えた篠崎を振り返る。
なんかあれだな、瀬戸先輩て呼ばれんの久しぶりだとか思いながら。
「先輩は、なんでそんな頑張るんすか?しかも俺のために…赤の他人ですよ?」
「あ?んなの当然だろう?」
「でも、でも俺のせいじゃないかもだけど、きっかけは俺っすよ?なんで―――…」
理解できないと訴えてくる篠崎に、ニヤリと口角をつり上げる。
馬鹿なことを聞くもんだ。
答えなど、これ以外に何がある?
「―――俺が、生徒会長だからだよ」
*1章END*
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