Arcadia | ナノ
授業は出ているのに生徒会室には来ない。
それは多分、こいつが授業にでないという行為を好まないと発言したからで。そして授業に出ている以上転入生の傍にいられるのは放課後だけ、自然に生徒会をサボるという選択肢を選ぶというわけだ。するとあいつらにとって憎いらしい俺とも対立する結果となる。一石二鳥ってか?
授業に出ている役員と授業をサボっているように見える俺とじゃ、生徒たちの心象も変わる。実際に生徒会がどんな活動をしているのか―――生徒会室で遊んでいるだけなのか、もしくは大量の仕事をこなしているのかを知らない生徒に、何が起きているかを推し量れという方が酷なのだ。
「学生の本分は学ぶことっすよね?いくら生徒会の仕事が多いからって、そっちを疎かにすんのはおかしい。本末転倒だと思うんすけど」
「……そうか?」
「そうっすよ!つーかそもそもそんな馬鹿げた量の仕事押し付ける学校が悪いけど。そうだ、俺が叔父さんに言って…」
「いや待て、それは違う。そりゃ確かに一般の学校に比べりゃ多いだろうがな、いいか、そもそも授業免除の特典なんざ普通だったら必要ねぇんだよ。全員でふりわけりゃなんとかなる量の仕事だ」
だから本当に、授業免除の特典はおまけとしか言いようがない。
じゃあ何故こんなものがあるかというと―――ただ単に、病気や怪我などのなんらかの理由で役員が欠けた時にその穴を埋めるためのものらしい。
確かにこなせる仕事量ではあるが、それは優秀な役員全員でもってわこなせる量と言った方が的確だろう。だから誰かが欠けると放課後の数時間じゃ難しく、授業を抜ける必要が出来てしまう。だけどまぁ、そういった特殊な場面じゃなきゃ、授業に出てたって仕事は片づけられる。
そう、だから訴える必要があるような理不尽な量ではないのだ―――全員揃いさえすれば。
それに、5人分の仕事を1人でやるのに常より時間がかかるのは当然だろう。
「だいたいな、元はと言えばお前の………」
こいつの、自分はなにも関係はないというような発言が癪に触る。苛々とそこまで言いかけて、しかし唐突に気がついた。
おいちょっと待て。俺は今、なんて言おうとした?
お前のせいで役員が仕事しないから――――…
なんて、あぁ、八つ当たりも良いとこだ。
役員が来なくなって、学園が荒れて、仕事が追いつかなくなりだして。今まで均衡を保っていたものが、たった一人の生徒を中心にしてものの見事に崩れていった。
だから、その諸悪の根元がこの転入生だと思っていたのだ―――否、そう思いたかったのだ。
(でも、それは違うだろう?)
確かにきっかけはこいつだ。
だけど、今この現状の原因はこいつじゃない。
勢いをなくして黙り込んだ俺の考えが読めたのか、呆れたように転入生が俺を見る。次いでがしがしとマリモ頭を掻いたあと、面倒臭そうに口を開いた。
「あー……あんたが俺のことをどう思ってようがどうでも良いっすけどね、でもこの学園が荒れてんのは俺のせいじゃない。どうなるかなんて予想できたくせに、俺やあんたがいくら言っても聞かなかったあいつらが悪いし、こんなことで一々騒ぐ親衛隊の奴らも可笑しい。それにあんたの監督責任でもある」
「………」
「でもそこに俺を持ってくるのはお門違いだよ、会長さん。
俺はあいつらに付きまとうなって言ったし、仕事しろとも言った。にも関わらず、あいつらは俺を構い続けたんだ…もう俺は面倒見きれねぇよ?俺はあいつらの保護者でも責任者でもない、ただの後輩でしょ。先輩方を更生する義理なんてないし、第一―――…」
冷たい目。
先輩方、と嫌みったらしく言って冷笑を浮かべた口元が酷く綺麗で、あいつらがこいつに惚れたのもわかるかも、なんてずれたことが頭を過ぎった。
「生徒会の長はあんたでしょう、会長。
いくら俺のせいにしようとしたって、あいつらの責任者があんたであることは変わりませんよ」
そう言って皮肉げに口角を上げた転入生に、俺は一言も返すことは出来なかった。
完敗だ。
全てをこいつのせいにするつもりはなかった。だけどきっと、俺はどこかあいつらのせいであってほしくないと―――こいつのせいであってほしいと、思っていたのだ。自分でさえも気づかずに目を背けていた事を、こうもズバズバと指摘されてしまえば、もはや苦笑いしか浮かんでこない。
―――らしくないな。
いつもだったら、こんな失態見せはしないのに。
あぁ、馬鹿みたいに独りで部屋に籠もり続けていたから、きっとどこか可笑しくなっていたんだ。
「そうだな…。はは、そりゃそうだよなぁ」
「へ?会長?」
「いや、うん、お前の言うとおりだわ。お前だってあいつらの愛なんてありがた迷惑だよなぁ」
普通に考えりゃそりゃそうだよ!と笑い出した俺を、転入生が訝しげに見る。なんだかひどく戸惑ったような様子が(鬘と眼鏡で表情はわからんが)さっき俺に説教かました時と余りに違いすぎて、また笑えた。
「や、悪い、変なとこ見せた。八つ当たりだから気にすんな。出来ればさっきまでの俺は忘れてくれるとありがたい」
「…や、無理っすけど」
「じゃあどっか可笑しくなってたんだと思っとけ。ん、自己紹介が遅れたな。3-Sの瀬戸拓巳だ」
「………1-Cの篠崎瀬奈(シノザキ セナ)っす」
手を差し出せば、転入生もおっかなびっくりそれを握ってくれた。
おぉ良かった、あんな冷たい目してた割に、そこまで嫌われてはないらしい。にやりと笑みを漏らせば、困ったように眉根がよるのが辛うじて見えた。
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