Arcadia | ナノ
「―――失礼しました」
頭を下げ、授業中のため少ない教師たちから労いの言葉を掛けられながら扉を閉める。良いのかそれで。授業中に職員室を堂々と出入りする生徒会長ってどうなんだ。まぁ言うて今はこの授業免除特典の恩恵を受けているわけだけど。
今日提出すべき書類は提出し終えた。風紀への書類は放課後に桜庭が回収してくれる。今日は会議は入ってないから、あとやるべきことは書類の処理と明日の会議の準備、そして転入生に会いに行くこと。部屋にいてくれると助かるんだが。
(…そういや、教師からのクレームがないな)
ふとさっきかけられた労いの言葉を思い出す。お疲れ、大変だね、と声をかけてくるということは、生徒会の現状を多少なりとも把握しているはずだ。ここまで学園中に広まってるのに教師陣が全く知らないってことはないだろうし。
だとしたら、いくら生徒会の権力が強いとはいえ、学園のシステムを壊すなんてさすがに見逃すわけにはいかないだろうに。有力者たちがこの学園を信頼して大切な子息を預けているのだから尚更。
それなのになんで教師陣からリコールを促す動きが出てないんだ?静観する理由はなんだ?
生徒会室へと歩きながらそんな事を考えていた俺の思考は――――一つの声によって遮断された。
「うおぉ人だぁぁああ!!ちょっとすみませんんん!そこの人ぉーっ」
「…ん?」
そこの人?そこの人ってまさかの俺か?
周りを見回しても他に人は見当たらない、何故なら今は授業中だから。そうだ、そうだよな。そもそもなんでこんな時間にこの特別棟に生徒がいる?
この学園で俺がそこの人って呼ばれるのも変だが生徒が居るってこと自体可笑しいだろ。
「や、すんません、ちょっと迷っちゃって。まじ誰もいなくて超焦ったし。あぁ良かった、ほんと良かった。えっと音楽室ってどこに………って、会長?」
「あ?お前………転入生か」
物凄い勢いでこっちに走ってきたと思ったら怒涛のように喋り始めた男の口が、俺が俺だと気づいてぱかりと開いた。
奇特な生徒もいたもんだと思っていたが、よくよく見れば成る程、最近何かと耳にする特徴を有しているこの生徒。驚いて見開いたであろう目は瓶底眼鏡の奥に隠れ、もじゃもじゃな長い髪の毛がさらにその上から覆っている。そして道に迷ってよりによって特別棟に入り込みあまつさえ会長に気づかず話しかけるという、普通の在校生には有り得ない奇跡。
あぁ、こいつが曰くの転入生か、と合点がいった。
「…お前取り巻きはどうしたよ?1人じゃ危ねぇって思わねぇの?」
色々聞きたいことはあるが、目下気になるのはこれだろう。阿呆役員共はともかく、こいつはいつも同じクラスの2人と一緒にいるって話じゃなかったか?
ただでさえ親衛隊から狙われてるのにこんな人気のない所に1人って。いくら被害者ったって危機感くらい持っててくれなきゃ困る。
「あいつらとはぐれたから迷ったんすよ。つーか取り巻きとかそんなんじゃないし」
「ふーん…あっそう。この件も含めちゃんと話がしときたい。お前今日の放課後…」
「会長は?会長こそなんでこんなとこに1人でいるんすか?授業は?」
おい無視か。
人の話の腰を折るな、俺の話は最後までちゃんと聞け。
「ここは特別棟だ、わかるか?生徒会室がある。そこで仕事を片づけてんだよ」
「…おかしくないっすか?」
「あ?何がだよ」
「だって、学生なのに。授業休んで生徒会の仕事って、優先順位間違ってますよ」
「うっせーな。仕方ねぇだろ、終わんねぇんだから」
さすが外部入学生というか何というか、言ってることがまとも過ぎて逆にこの学園では異常に聞こえる。それもどうかと思うがな。
そしてようやくわかった。役員共が授業に出ている理由は―――こいつだったか。
prev
|
back
|
next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -