Arcadia | ナノ
外でサッカー部が部活に励んでいるのを横目に歩きながらくぁ、と欠伸を咬み殺す。相変わらず睡眠は足りていない。
桜庭が手伝ってくれるようになって、これでも大分ましにはなったのだ。けれどやはり、半年かけてやり方を引き継ぐ仕事を部外者にやってもらうのには限度があった。会議も増えた今、睡眠時間やらなんやらを削る毎日が続いている。
「桜庭、生きてっかー?」
生徒会室の扉を開けると、綺麗に整頓された書類が整然と並んでいた。桜庭が仕分けてくれたそれのおかげで非常に仕事能率が上がったのは確かだ。自分が処理できる書類を処理し終えると、桜庭は雑用を次から次にこなしてくれるから生徒会室はかなり綺麗になった。さすが風紀No.2と言いたくなる有能ぶり、雑用だけど。と言うかこんな事に風紀のNo.2を使ってて良いのか?
「おかえり瀬戸、今紅茶淹れたとこやで」
「悪いな」
給湯室から出てきた桜庭が俺の机に紅茶を置いてくれる。実はまだ固形物を食べるのには物を選び時間をかけなきゃならないためお菓子は摘めない。残念だ。
しかしなんだこの出来た嫁は。美人で気が利く人間が帰りを待っててくれるなんて素晴らしいシチュエーションだよな、男だけど。
「なぁ桜庭、お前まだ平気なのか?」
「ん?なんのこと?」
「風紀忙しいんだろ。こんなとこで雑用してて大丈夫なのか?」
桜庭の淹れる紅茶は少し濃い。疲れた時はこの濃いめの紅茶を甘くしてミルクティーにすると癒される。今やお菓子が摘めない俺にとって、糖分補給に欠かせないものだ。
「気にせんでえぇよ。ほんまに人足りひん時は連絡来るやろうし。そん時はちょっとだけ抜けさしてもらうけど」
「あぁ、構わねぇよ」
おおきにと笑う桜庭に癒されながら締め切りが近い書類に手を伸ばす。万年筆を手にしたときに、脇に寄せてあった紙が目に入って溜め息が漏れた。処理しようとしていた書類をそのままに、その紙を手に取り上げる。
(…リコール、ね)
それは、昨日の各委員の長の会議の時に渡されたものだった。俺以外の生徒会役員のリコール請願書。今は俺の一存でここで止めてもらっている。
予想はしていたことだ。
今のあいつらは学校公認のサボりなわけだから。いや、公認てのは間違いか。認められないからこそのリコール願いなんだし。
おそらく改革とか言って一度システムを崩壊させる、というのが納得できないのだろう。崩壊後にどうやって立て直すのか、何を目指して立て直すのかが不透明だし。そんな不確定要素の多すぎる計画を安易に支持できるほど、委員長たちは愚かじゃないわけだ。
と言ってもあいつらの目的は俺を引きずり落とすことらしいから仕方ないんだが。大体俺の貶し方ぐらい統一しとけっての。稲嶺と双子が俺をヤリチンと言っときながら宏紀は仕事してるの認めるって適当すぎるだろ。
「どーおすっかなぁ…」
「何が?夕飯?」
「んーまぁな、今日は食堂行こう」
「そうやね」
明らかな敵意を向けられている今、これ以上あいつらを庇う必要があるのか。他のメンバーとやり直すんで良いんじゃないか。
その方がずっと楽なのはわかってる。端から見たら、その方が正しいように見えることも。
ただ、あれだけで判断するのは早計だとも思う。あんな建て前ばかり聞いても、あいつらの真意はわからない。途中でまともに取り合うのが嫌になって放り出した俺にも問題はあるんだし。
もう一度あいつらと話そう。
それから決断しても遅くはないはずだ。ちょうど転入生にも話を聞かなきゃならないし、転入生に会いに行けばあいつらも漏れなくいるはず。その時にたっぷり話を聞いてやろう。
そうと決まったら話は早い。明日にでも事情聴取させて頂こうか。
(わざわざ俺が出向いてやるんだ、せいぜいまともな話を用意しておけよ―――…)
思わず漏れたあくどい笑みに、桜庭がビビってたなんて俺は知らない。
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