Arcadia | ナノ
「今日の会議は以上だ。次までに各クラスでそれぞれの出場競技を決めておけ。解散」
会議の終了を宣言し、早く生徒会室に戻ろうと手早く書類を束ねていると、手元に影が落ちる。顔を上げれば、そこには峰岸が立っていた。
「報告しときたいことがある。俺も途中まで一緒に行くぜ」
「わかった」
あちこちからの物言いたげな視線に見送られながら廊下へ出たが、最後まで声はかからなかった。
あれから一週間、食堂での騒ぎの噂は全校生徒に広まっていた。もちろん盛大な尾びれと背びれ付きで。
副会長が計画している学園革命を会長が阻止しようとしてるだとか、会長と風紀委員長が付き合ってるだとか、いやそもそも会長と副会長の仲違いは転入生の取り合いだとか。副会長は学園の崩壊を企み、会長は保身に走っているのだという見方もあるらしい。
何が一番わからないって、もちろん転入生の件だろう。どっから出てきたんだその話。まだ会ったこともねぇよ。
「おい、眉間にしわ。お前俺の話聞いてたかァ?」
「ん?あぁ、悪ぃ。もう一回頼む」
峰岸に指摘され、ぐりぐりと眉間のしわを解す。跡がつきそうで怖いがしわが寄るのも仕方ないと思う。生徒会関連の噂は大抵誇張されて伝わるものだが、あまりに飛躍しすぎだろう。
「お前な、解してるそばからしわ寄せてどうする。跡とれなくなるぜ」
「気にすんな。それで何だって?」
「ったく、転入生だよ転入生。制裁が始まったらしい」
「制裁か…」
峰岸の話によると、現在動いているのは会計と双子、あと転入生に付きっきりな人気者2人の親衛隊。今までは我慢していた彼らだったが、堪忍袋の尾がついに切れたらしい。ところが転入生には全く効果がないという。恐ろしく強いためチワワたちは見事に返り討ち、そしてそもそも虐めは1対その他だから効くのであって、味方が多い転入生は嫌がらせも気にしていない。
「まぁ1人になることが少なすぎて手ぇ出すに出せねぇってのもあるんだろうが。あいつの周りの連中のガードも堅いしな」
「へぇ…。宏紀のとこのは?」
「動いてない。それが逆に気味悪ぃ、何考えてんだか…」
宏紀のとこは一番過激だったはずだ。こんな状況だったら真っ先に手を出すはずなんだが…。
穏健派にシフトしたって事は考え難い。何か別の機会を窺ってるのか?
「まぁ何にせよ、その件もどうにかしなきゃなんねぇな。今度こそ転入生に会いにいかねぇと」
「…お前、自分で会いに行く気かァ?」
「は?他に誰がいるってんだよ」
制裁が始まったって事は風紀は今まで以上に忙しくなるはずだ。風紀が手薄になったところを狙って強姦事件とか起こす愚か者も増えるだろうし。
ならば俺が行くべきだろう。今回の被害は生徒会のせいでもあるんだから。気にしていないと言う人間に聞いても意味ないかもしれないが、二次被害にも気を配るためには情報が必要だろう。
「…転入生の周りは親衛隊持ちだけなのか?」
「いや、同室者に一般生がいる。ごくごく普通の生徒だ」
「名前は?」
「中谷亮(ナカタニ リョウ)」
中谷亮、ね…。中谷、中谷、中谷…?
記憶に引っ掛かりもしない。本当に目立たない生徒らしい。
まずいな、と再び眉間にしわを寄せれば、峰岸も眉間にしわを寄せていた。
「…まだ報告は来てないが、多分もう制裁されている。ガードが緩い分転入生よりもずっと危険だ」
「まずはそっちだな」
「いや確かにそうだがな、お前絶対1人で行くなよ?」
「はいはい、誰か手が空いてたらな」
暗に誰も手が空いてなかったら1人で行くと告げれば、峰岸はまた何か言い始めた。なんだこいつは、いつからそんな過保護になったんだ。お前は俺の保護者にでもなったつもりか。
「わかったから風紀委員長さんはさっさと帰れ。忙しいんだろう」
「チッ。良いか、どっか行くときは絶対連絡入れろよ」
適当にひらひらと手を振って応え、峰岸と別れる。まだなんか言っていたが、聞こえてないふりをした。
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