Arcadia | ナノ
〈SIDE:峰岸〉
「本気でこの学園のシステムを変えようとしてるのは誰だと思ってる」
そう言ってぞくりとする程綺麗な冷笑を浮かべた瀬戸。最近めっきり華奢になった背中を無言で見送りながら、それを思い出すだけで体が熱くなる。
欲しいと、ただそれだけが頭を支配した。どうしようもなく渇くのだ。ただ一つのものをここまで渇望したことは、初めてだった。
俺が風紀委員長に、あいつが生徒会長に就任して初めての顔合わせの時のことは鮮明に覚えている。
元々面白い男だとは思っていたのだ。完璧すぎる程整った容姿に学年主席の頭脳。いつだって自信に満ちていたその男は、自惚れとも思えるほどの自信に見合う実力を、確かに有していた。
そう、だから瞬く間に頂点へ上り詰めるだろうと思われたのだ。生徒会入りは確実だろうと。だがしかし、完璧かと思われた男には、この学園において何よりも大切なものが欠けていた。それは、努力ではどうにもならない生来のもの。
――――家柄だ。
どれだけ能力が高い人間であっても、後ろ盾なくば認めない。
そんな風習のあるこの学園で、編入したばかりの瀬戸は、話題に上るもどこか馬鹿にされていた。母が女優だから金持ちで見目はよいが、彼は御曹司ではない。未来の地位が約束されている自分たちとは世界の違う、一般人である、と。
だがしかし、瀬戸はそんな嘲笑に屈しはしなかった。それどころか、この二年間でその生徒たちが考え方を変えざるを得ないほどの圧倒的な人格と能力、そしてリーダーシップを有していたのだ。
「俺がこの責を負うってことが、この学園が変わり始めた証拠だろ」
就任直後、瀬戸はそう言ってその黒曜石のような瞳を煌めかせた。
「俺自身が学園の変化の象徴ってわけだ」
そして奴は俺に告げたのだ。
自分はこの学園を変えるつもりだと。学生として、もっと純粋に楽しめる場所にしたいのだと。
それは、こちらの世界を知らない一般人の戯れ言で。
押しつけがましい“幸せ”で。
詭弁だ、何も知らないお前が自分の正義感を、常識を振りかざすな―――そう言って切り捨てるのは簡単だった。
「…――――好きにしろ」
だが俺には、切り捨てることは出来なかった。奴の言葉には、そうはさせない何かがあった。
「俺はそんな事に興味はねぇ」
元々風紀は実力主義の集団だ。だから別に、その考え方に反対しようとは思わない。
だが、だからと言って協力するつもりもない。
そう言えば、奴は満足そうに笑った。それで十分だと、笑った。
あの黒曜石は、誰かを必要とすることはあるのだろうか。助けを求めて縋ることはあるのだろうか。
あの孤高の黒曜石に求められたとしたら
――――きっと、最高に気分がいい。
***
「げ、なんちゅう顔してんねん」
瀬戸の退場で遠慮がなくなったのか、一段と騒がしくなった生徒たちを宥めに行っていた駿太が、戻って早々嫌な顔をする。
なんのことだと眉を上げると、呆れたと溜め息を吐かれた。上司に対して失礼な奴だ。
「暁斗自ら風紀乱してどうすんねん、この歩く18禁が」
「はァ?」
「どうせまた瀬戸ん事考えてたんやろうけど。いややねぇ、手伝ってくれるとは思っとらんけど、せめて邪魔せんでほしいわぁ」
あぁなる程、どうも俺は、瀬戸の事を考えていると歩く18禁とやらになるらしい。あのいけ好かない親衛隊長もそんな事を言ってたな。
prev
|
back
|
next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -