Arcadia | ナノ
「拓巳にとっては困る話かな、今の学園のトップだから居心地いいだろうし。だけど絶対崩してやるから。自分が王様である砂城を守るために、せいぜい頑張って足掻いてくれよ」
綺麗に笑う宏紀。
しんと静まる食堂。
馬鹿馬鹿しい。
何故こんな事を言い出したのかわからない。わからないが、こいつらが本気で改革をしたいなどと思ってないことだけはわかる。
「―――そうか、好きにしろ」
俺の中の何かが急激に冷えていく。
下らない。浅はかすぎる。こんな茶番を求めていたわけじゃない。
この、家柄差別とヒエラルキーに最も相反する位置にいる人間が――――この俺だということが、何故わからない。
「好きにさせてもらうよ、みんなが暮らしやすい環境を作るためにね」
「僕らの邪魔をするなら」
「いくら会長先輩と言えど」
「「絶対許さないからねー!」」
「ばいばいかいちょー」
去っていく役員たちの背中を見ながら、彼らを引き止める気にはなれなかった。今引き止めたって、きっと何にもなりはしない。
1つ短く息を吐いてから、食堂を見渡す。静まり返ったまま動けていない生徒たちに向かって笑みを浮かべた。
「騒がせてすまなかったな。食事を続けてくれ」
途端、蜂の巣をつついたように騒がしくなった食堂に安堵する。柄にもなく緊張してたか。
ふいに引っ張られる腕。無言で俺の腕を引く峰岸に、何とはなしに笑みが零れた。
きっと今、役員たちから拒絶された俺が、それでも折れないでいられるのは、まだ味方がいることがわかっているから。
「…なんで言い返さねぇんだよ」
席につきながらようやく口を開いた峰岸を見れば、怖いぐらい真剣な碧眼が俺を見ていた。
「あぁ…悪かったな、俺とネタにされて気分悪ぃだろ」
「おい瀬戸!茶化すな!」
「わかってる。言い返しても無駄だと思ったからだよ」
桜庭が注文してくれていたらしい和定食のお吸い物をすする。久々に暖かいもの食ったな。
「改革だか何だか知らねぇが、あんなん職務放棄のための免罪符に過ぎねぇだろ」
ひいては俺と敵対するための、とは流石に言えなかった。
「後から取って付けた理由にいくら反論しようと、あいつらはそんなん興味ねぇんだから意味はない。だいたい反論したってまともに取り合っちゃくれねぇよ、あいつらはちゃんと考えてねぇんだから」
「そうかもしれんけど、もしもあいつらが本気やったら…」
「――――本気?」
心配そうにする桜庭の言葉に、冷めた笑みが浮かぶ。
「本気でこの学園を変えようとしてるのは誰だと思ってる」
ひんやりとした空気が流れる。
ダメだな、こいつらに当たるべきではないと解っているのに、苛立ちを隠せない。それにやはり、ついさっきあんな口論を繰り広げて尚ここにいるのは、周りの視線が痛すぎる。
お吸い物は全部飲んだし十分だろう。今は精神的にこれ以上食うのは無理だ。
「悪い、やっぱまだ固形物食うの無理だったわ。先帰るな」
席を立ち歩き出すと、無数の目が俺を追うのがわかる。後ろから聞こえる俺を呼び止める桜庭の声と数多の視線を振り切るように、俺は食堂を飛び出した。
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