Arcadia | ナノ
ざわざわと落ち着かない廊下。生徒の目という目が俺たち3人に集中していた。残念ながら気分のいいことではない。しかしいつもの事と言えばいつもの事なので、別段気にするつもりもない。
「そういえば何で蓮は峰岸についてきてたんだ?」
「知らね。何も言ってねぇのに勝手についてきたぜ」
「それは、風紀委員長が…!」
「峰岸が?」
「なんて言うかその、えぇっと、歩く18禁だったので……」
困ったように告げた蓮の言葉に盛大に吹き出す峰岸。あんまり派手に笑うもんだから周りの好奇の視線がぐっと増えた。
気持ちはわかるがちょっとは堪えろ!
「ふはははっ!なんだそりゃ歩く18禁!?」
「ちょ、んな言葉大声で叫ぶんじゃねぇよアホ!蓮もそんなんで判断してんじゃねぇ!」
きっと蓮はあれが言いたいのだろう、峰岸は敵に対峙した時が一番色っぽい云々とか言うやつ。しかしそれだけで俺関連と判断するのもどうなんだ。峰岸の色気割増=俺関連てすげぇ複雑なんだが。
そうこうしている内に生徒の数が増えてきた。食堂に近づいている証拠だ。そしてそれに伴いキャーキャーという男子校にあるまじき歓声も大きくなっていく。
「ところで拓巳様、固形物を口に出来るようになったのですか?」
「あ、」
「なんだ食えねぇのか?」
「だから仕方なしにあれだったんです。そうでなければ私があんなもので許すわけがないでしょう」
「………」
そういえばそうだった。
俺は好んで簡易食を食べていたわけじゃなくて、忙しくてゆっくり食ってる暇はないと、貯蓄してあった10秒メシを食べる頻度が次第に増えていって…気づけば固形物を胃が受け付けなくなっていたんだっけ。それに気づいた蓮にめっちゃ説教されて、それでも何か口にしないよりはマシだと泣く泣く10秒メシを大量購入してきてくれたんだよな。
あん時の蓮はめっちゃ怖かった。ほんと怖かった。蓮が持ってきてくれてた弁当には手をつけずにあっちばっか食ってた俺が悪いんだけど。
いやだって時間が惜しかったんだ。飯食ってるその間に何枚書類が処理できると思う?
…あ、また言った。
「………食べられるかもしれない」
「なんだその希望的観測は」
でっかい溜め息を吐かれても反論の余地はない。くそぅ、いつもはあんなに火花散らしてるくせにこんな時だけ結託しやがって。
しかし書類処理スキルが上がったのに反比例して見事に生活スキルがだだ下がりだな。
我ながら呆れる。なんだこのダメ男。
「世話の焼ける会長様だなァ」
「うっせぇな。なんにせよ固形物食えるようになんなきゃなんねぇんだ。ちょうど良いじゃねぇか、慣らしてくにはコンビニ食より食堂で作ってもらったものの方が良いだろ」
「それは確かにそうですね。…では、参りましょうか」
ホテルボーイ宜しく蓮が優雅に扉を押し開く。促され、峰岸と共に食堂へ一歩踏み出した途端―――割れるような歓声に包まれた。
prev
|
back
|
next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -