Arcadia | ナノ
「―――蓮(レン)!」
流れるような黒髪に涼やかな目許、そして透き通るように白い肌。折れそうな程細い腰とすらりとした長い手足による所作は優雅の一言。
この、完璧なる正統派和風美人こそが、俺の親衛隊長である仙波蓮(センバ レン)である。
まさにその名前を体現したかのような美しさ。俺の親衛隊に入る前は自らにも親衛隊が存在していた彼は、何よりも俺の癒しである。目の保養。この荒んだ心を癒してくれる唯一の存在。
「嗚呼、また一段と疲労の色が濃く…!どうして貴方は我々を頼ってはくれないのです!」
「あー…昨日は連絡しなくて悪かったな」
「どれだけ私が心配したと…!」
俺の存在を確認するように、隣にやってきてペタペタと顔を触ってくるのを好きにさせて、俺は俺で蓮に抱きつく。顔は愚かあっちこっちまさぐられども気にしない。こいつの俺に関してだけちょっと可笑しなリアクションにも大分慣れた。心配性な彼を宥めるためには好きにさせておくのが一番なのを、俺は知っている。
あー…いやほんと癒される。絶対マイナスイオン出てる気がする。なんかいつも良い匂いすんだよなぁ。
「また痩せてる…!どうせあれしか口にしてないんでしょう?私よりずっと細いですよ…」
「冗談。んなことあるわけねぇだろ」
「本気で言ってるんです。お願いですからここに籠もっている間は連絡して下さい、心労で殺す気ですか?」
「悪かったって、昨日今日と色々あってな…。それにお前が死んだら俺も死ぬ」
「またそんなことを。拓巳様はいつもいつも口ばかりではないですか…」
「拗ねんなよ、本当だぜ?癒しがなくなればそれこそ心労で死ねる」
抱きつきながらぐりぐりと額を蓮の胸に押しつける。蓮の細く長い指がそんな俺の髪を梳くのが気持ちいい。
このまま寝ちまおうかな…でも今寝るのは勿体ないよなぁ。
そんなゆるゆるに弛んだ空気の至福の時間は――――無粋な咳払いによって一瞬にして霧散した。
「瀬戸会長がお盛んなのはただの噂じゃなく真実だったんだなァ」
峰岸。そうだった、こいつ居たんだった。すっかり忘れてた。蓮に夢中になりすぎた。
いやでも呆けている場合じゃない。今のは俺のみならず蓮までもを侮辱する内容だった。いいだろう、売られた喧嘩は買ってやる。
受けてたつ!と口を開いた俺だったが、しかし俺より先に―――当の蓮が爆発した。
「まだそんな愚かな事を…!我々瀬戸拓巳生徒会長親衛隊と拓巳様はそんな関係ではないと何度言えばその頭は理解できるのか!!」
「んなこと言われてもよォ、目の前でイチャイチャされちゃあ信憑性も薄れるってもんだろ?」
「呆れた…!何故わからない!?風紀を律する者のトップであるお前が下半身で物事を考えるからと言ってこの学園のすべての者が下半身でしか物事を考えられないわけではない!!」
「ほォ?言うじゃねぇか。だが残念だったな、この学園はお前の言う下半身で物を考える男を風紀のトップとして既に選んでるんだ。風紀のルールは俺だぜ?だったら俺に疑われるような行動は慎むのが賢い選択だと思うがなァ!」
ぎらぎらと睨み合う峰岸と蓮。
見かけ通り短気な峰岸と見かけによらず短気な蓮は、顔を合わす度に火花を散らす。なんたって風紀委員長と親衛隊隊長だし、俺大嫌い人間と俺大好き人間だし。とにかく相性が悪すぎる。
まぁ蓮が短気になるのは俺に関することにのみだけど。というわけで、怒りで蓮のキャラが壊れる前に止めるのは俺の役目だ。
「お前が風紀のルールだと!?そんな風にしか考えないからこの学園は……!」
「れーん。蓮、落ち着けよ」
「拓巳様…」
峰岸に牙を剥く蓮に声をかけると、困ったように綺麗な眉がよる。
「大丈夫だから。俺に任せてくれ、な?」
「………はい」
「悪いな。…おい峰岸」
なんとか蓮を宥めて顔を上げれば、不機嫌そうな峰岸が腕組みをして立っていた。
「改めて言う。俺が親衛隊を性欲処理のために使ったことは一度もない」
「……」
「蓮が言ったとおりこれは親愛なる友への愛情表現だ。こいつは俺の癒しだからな、目一杯愛でるし可愛がるが性欲処理に使うなんて有り得ない。癒しを汚しちゃ生々しくて癒しになんねぇだろうが」
「…チッ。んなこと知ってる、ただからかってみただけだ。てめぇらの関係なんざとっくに調査済みなんだよ。風紀舐めんじゃねぇ」
「はぁ!?じゃあ何なんだよ今の流れはよ!」
「だからからかっただけっつってんだろ!さっさと食堂行くぞ」
ふん、と鼻を鳴らしてくるりと生徒会室を出ていく後ろ姿を見ながら思わず脱力。
なんだ今の、意味わからん。やだもうこいつ疲れる。
なんでこうも人を刺激するのが好きなんだか。しかも途中から本気になるから質悪ぃ。子供か。
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