Arcadia | ナノ
意味がわからない意味がわからない!
もがいて逃げ出そうとするも、元より勝ち目などないのに耳を舐められて更に力が抜ける。もうどうすれば良いかわからない。思わずぎゅっと目を瞑ると――――どこからか、救世主が現れた。
「はいそこまでー。暁斗やり過ぎやで」
救世主は糸目美人。
さっきまでは助ける気などさらさらなかったように見えた桜庭がぱんぱんと手を叩く。何が彼を動かしたのかわからないが、理由なんてどうでもいい。よくやった桜庭、さっき見殺しにしたのは許してやろう!
「おぉ悪ィな、いやなんか余りにもテンパってるからつい楽しくなっちまって」
「ふざけんな!さっさと離せ変態!」
悪い悪いと笑う峰岸の拘束から逃れようともがいていると生暖かい視線を感じる。だからそんな目で見てんなら助けろよ!お前が救世主だったのは一瞬だけか!
仕方ないなといった風に弛んだ拘束から抜け出すと同時、これまた古めかしいチャイムが鳴り響いた。助かった、予鈴だ…!
「さて、会長様には身の危険を理解して頂けたことだろうし、俺達はもう行くか」
「まぁ今から教室に行っても間に合わへんけどな」
「とりあえずてめぇは午前中は寝とけ。昼は食堂行くぞ」
「え、食堂行くのかよ?」
今はあそこには行きたくない。食事をしに行くってだけで食堂は無駄に疲れる。
最近しばらく行っていなかったからいつもより注目を集めるだろうし、あっちこっちから突き刺さる無数の好奇の視線に普通に耐えられるほど今は万全ではない。俺の不摂生がいけないんだけど。結局ここに帰結するな…。
「しょうがないやろ、ちゃんとしたもん食べんとまぁーた暁斗に好き勝手されるで」
「俺はそれでも良いけどなァ?とりあえず昼は迎えに来っから、それまで仕事すんじゃねぇぞ」
最後に念を押す峰岸に渋々頷くと、一応は満足したのか、2人は揃って出て行った。騒がしくて忙しない奴らだ。まぁ本来のこの部屋はもっと騒がしいんだけど。
でもとりあえずなんとかなりそうだ。ほんと良かった。見つかったときはどうなるかと思ったが結果オーライ。ほんと良かった。
さて、午前中は寝てろと言われたわけではあるが………。
正直峰岸の言うことを従順に聞くってのは癪に障るし、午前中ってまだ3時間以上もあるんだぜ?超勿体なくね?
「………」
うん、大丈夫、四限が終わる前に寝りゃいいんだろ、バレねぇよ。だってそうだろ、3時間とかその間に何枚書類が処理できると思う?
…口癖になりそうだ。
***
「っしゃ、終わったぁ!」
さらさらと書類に署名をした万年筆を置き、ぐぐぐと仰け反って体を伸ばす。あぁ超気持ち良い。仕事が一段落ついたあとの伸びは格別だよなぁ。
まだまだ未処理の書類は残っているが、しかし処理済みの書類の束を持って感じるのは紛れもない達成感。
すげぇ俺、この束全部終わったし。仕事スピード超速くない?確実に書類処理スキル上がってるわ。昨日ロスした分もこのスピードならすぐ挽回できるだろ。
思わず鼻歌でも歌いそうになりながら、さぁ一休みに茶でも淹れようと肘掛けに手をついた時だった。ピーッという音がしてすぐに開く、会長席の真ん前にある扉。
入ってきた男の碧眼と目があった。
…あ、やべ。
「てんめぇ瀬戸ォ!!!まだ懲りてねぇのかこのワーカホリックがぁぁあ!!」
「うっせぇうっせぇ!ノックなしに入ってきてんじゃねぇよ無礼者!!」
「無礼者だぁぁあ!?中で寝てる生徒会長様を起こさねぇためだろうがァ!!だいたいてめぇは―――…!」
「拓巳様!!」
げ、墓穴掘った。
と内心焦っていた俺の耳に、凛とした声が響く。
峰岸を押し退けるようにして現れたのは――――絶世の美人。
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