Arcadia | ナノ
桜庭が手伝ってくれることになった。
しかし生徒会側の不始末で彼に授業を抜けてもらうのは流石に申し訳なさ過ぎるのでやめてもらう。放課後だけでも十分助かるのだ。それに彼らに直接言えはしないが、今まで1人で籠もっていた俺にとって、誰か話し相手がいるというだけですごくありがたい。いやまぁもちろん仕事をしてくれるなら尚嬉しい。
「ま、手伝う言うても出来るのは風紀関連だけやけどな」
「いや、助かる。ありがとな」
この二週間はまだ会議が少なかったから良かったが、これから体育祭に向けて会議が増えるのだ。放課後に重要な資料が置かれた生徒会室が無人じゃないというだけで心理的に楽になる。だから居てくれるだけでありがたいのだと、そう告げれば、桜庭はお得意の困った顔で笑った。
「はぁ…まぁ瀬戸やからなぁ」
「は?」
「気にせんといて。気にした俺が阿呆やった」
いや意味が分からん。
よくわからない桜庭に首を傾げていると、不意に峰岸が残念そうに溜め息を吐いた。
「しかし惜しかったな…あの約束も事実上反故かァ」
「約束?」
「昨日しただろ、覚えてねぇのか?あと二回へましてくれりゃあ天下の瀬戸様を抱けたのによォ」
「ばっ…!誰も約束なんかしてねぇだろうが!」
そうだこいつ、そう言えばそんなふざけたこと言ってたじゃねぇか!
しかもあまつさえこの俺にキスしやがったんだった!その後の視察宣言が衝撃的すぎてすっかり忘れてたけどな!!
にやにやと俺を舐める視線から逃れるように峰岸から距離をとると、何故か峰岸はますますにやついた。いやいや意味わかんねぇよ。わかりたくねぇよ。
やっぱこいつ気持ち悪ぃ!
「ったくお前は何やっとんねん!」
「何ってナニ?」
「してねぇし!ぺろっと嘘つくんじゃねぇよ阿呆!」
ケラケラと笑う峰岸を睨むが、ダメージを与えられている気がまったくしない。ここは一発や二発殴ってやりたいところだが、昨日のことを考えれば近づかないのが無難だろう。
と、桜庭が何かに気がついたように立ち上がった。
なんだ、なんか良いもんでも見つけたか?俺の机の下なんか何も…ってあぁぁぁああ!!
まずい!なんか知らんがアレ見られるといつも説教されるんだ!見られるわけにはいかない、俺は説教するのは好きだがされるのは嫌いだ!
「あ、ちょ、待て桜庭、そっちには何も…!」
「…これは何かなぁ?会長サン」
しゃがんで何かを覗いていた桜庭がゆっくりと立ち上がって手に持ったもの―――黒いゴミ箱を傾ける。
窓から射し込む光を反射して、銀のパッケージが眩く光った。
「えーっと…。……忙しい人の味方の10秒メシ?」
向けられる綺麗な笑顔に釣られて笑もうとするも、その笑顔の黒さに気づかないわけにはいかず、顔が引き攣るだけに終わってしまう。
思わず一歩引こうとすれば、横から伸びてきた手に手首を掴まれる。昨日拘束されて赤くなっていた手首を撫でられ、驚いてびくりと肩が跳ねた。
「そういや昨日、アホみてぇに無抵抗だったなァ。あれは抵抗しなかったんじゃなくて出来なかったのかァ?」
「さっわんなって…!」
「それにてめぇ、昨日も制服のままだったよなァ。昨日あの後部屋に戻らずにこっち戻って仕事してたんだろ」
ぐぃと引っ張られるままに峰岸の胸に飛び込む。そのまま抱き込まれ、身動きがとれなくなってしまった。まともに踏ん張れず、拘束から逃れられない自分に腹が立つ。
桜庭があーあーと言う呆れた顔でこっちを見ていて、止める気ないのが丸わかりだ。おい呆れるくらいならお前の上司を止めてくれ!
「ほっせぇ身体…。生徒会長ってのは狙われやすいんだってことが理解できてないのかねェ、今期の会長様は。それともてめぇは不眠絶食状態でも男を返り討ちに出来ちまうくらいの超人なのかァ?」
「っもうわかったから!もうやめろ…!」
「やめて欲しけりゃ自力で抜け出してみろよ瀬戸」
耳を打つ低く甘さをもった声に、不覚にも顔が熱を持つ。次いで耳の縁を舌でなぞられて大袈裟に肩が跳ねた。
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