Arcadia | ナノ
「ったくてめぇは…」
「まぁ確かに、正直全く気づかんかったほど滞りなくみんな進行してたしなぁ」
「メンバーの奇行を除けばな」
ほんとだぜ、決定打は俺が睡眠を優先させちまったこと。学園運営として考えればほとんど可笑しなところはなかったのに。くっそ、もうちょい俺の目蓋が頑張ってくれりゃこんなことにならなかったものを。
「…だがなぁ瀬戸、てめぇが倒れちゃ意味ねぇんだぜ?」
下げていた頭を、顎に手をかけられて上げさせられる。反対の手が昨日のようにそっと目元をなぞったが、気持ち悪く感じはしなかった。
対峙する碧眼は今日も綺麗だ。
「こんなギリギリでいつまで保つと思う?」
「あいつらが帰ってくるまで」
「…呆れた」
はっと短く息をついた後、峰岸はお手上げだとばかりに両手を上に上げた。桜庭は思案するように指を組む。
「誰か手伝いに回したいけど、うちも絶賛人手不足やからなぁ」
「お前補佐をつける気はないのか?」
「…1年に知ってる人間がいない」
「そうやった!瀬戸の弱点は人脈不足やったー!!」
これは痛い!と呻く桜庭がなんかうざいのは何故だろう。真実だ、真実なんだがこの上なくうざい。2人ともにやにやしてんじゃねぇ。
高校から編入した俺には1年に知り合いがいない。探しに行く暇もない。誰だ補佐は1年のみとか規定したやつ、いつか変えてやる。
「あー…俺らが有望だと思う1年はみんな風紀に引き込んじまったからなァ」
「勧誘という名の脅しでな」
「うっせぇ駿太」
「事実やから反論できひんよなぁ」
「うっせぇっつの」
軽口を叩く2人を前に、なんだかひどく懐かしい気分になった。
そう、二週間ぶりなのだ、仕事以外でまともに人と接するのが。二週間は、短いようで長い。人肌恋しくなるのには十分な長さだ。
なんて1人で感慨に耽っていると、2人が揃って俺を見た。なんだ、何か決まったのか?
「仕方ねぇから特別に駿太を貸し出すぜ、ありがたく思え」
「は?」
「俺も時間ある時は顔出すが…それじゃ不満か?」
「え、いや、んなわけ…つーか風紀は大丈夫なのかよ」
「バーカ、生徒会が大丈夫じゃねぇんだろォが」
ニヤリと笑う峰岸は良いとしても、他の風紀委員は困るんじゃなかろうか。峰岸のストッパーは桜庭だけなんだから。
本当にいいのかと桜庭を見れば、にこにことした笑みが返された。
「えぇねん。あいつらもそろそろ俺なしで暁斗に対応できるようになってくれへんと困るし」
「駿太がいないからたっぷりしごいてやるぜ」
「程々にしてやりや」
何でもない風に話す彼らに、不覚にも感動した。
なんだこいつら神か…!
なんて阿呆な思考回路になってしまうのも仕方ない。だって今の俺は優しさに飢えているから。
「ま、会長様に貸しを作るのも悪かねぇからなァ」
「うわぁ、なんや暁斗それデレてるつもりなん?」
「はァ?」
「貸しなんて考えんでええよ、同じ学園運営側として当然のことやねん。お互い様やろ」
そう言ってからからと笑う桜庭が天使に見える。美人だから尚更。神々しいまじで。
「悪い、世話になる…!」
頭を下げると同時に口から出た言葉は、思っていたよりも勢いがよくて苦笑い。そんな正直な俺の反応に、案の定峰岸がくつくつと笑うのがわかった。顔を上げれば、にっこりと綺麗に笑った桜庭がこれまた綺麗な手を差し出す。
「こちらこそよろしゅう、瀬戸会長」
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