Arcadia | ナノ
「こ、れは………」
がチャリと開いた扉。入ってきた2人の人物は、入り口で見事に固まった。
当然だろう、この部屋の現状はあまりに酷すぎる。
積まれた書類の山。
埃を被った役員の机。
そして俺。
俺だって固まりたい。しかし残念なことに、固まるには俺はこの酷すぎる状態に慣れ過ぎてしまっていた。
「あー……これは、想像以上やね」
峰岸と共に入ってきた風紀副委員長、桜庭駿太(サクラバ シュンタ)が、困ったように沈黙を破った。普通に関東出身の彼は糸目美人である。なんでも糸目は関西弁を喋るべきだとかで、わざわざ関西弁らしい。
なんだそれどこの漫画だ。残念な美人とはまさに彼のこと。
と、普段は残念美人な彼に癒されるのだが、今日はそうも言っていられない。
さぁどう切り抜けてやろうかと様子を見ていると、峰岸がやっと動き出した。ずんずんと真っ直ぐにこちらへやってくると、唯一埃の被っていない俺の机にダンと両手をつく。机上に置いてあった処理済みの書類が数枚、宙に舞った。
「おい瀬戸てめぇ……これのどこが通常運転だ、あ゙ぁ?」
「…期日は守ってる。遅れたのは昨日のだけだ」
「いい加減にしやがれ!俺が言いてぇのはそんなこっちゃねぇよ!!」
ふ、と激昂した峰岸の右手が動く。
――――殴られる。
痛みに備え、緩く目を閉じた。
次いで、部屋に響く乾いた音と共に左頬が熱を持つ。予想よりもずっと軽いそれに、なんで、と峰岸を見れば、ぎらぎらと睨んでくる碧眼とかち合った。
「ちったぁ目が覚めたか生徒会長様よォ!!」
「お前…」
「避けるぐらいしやがれ!そうやって腑抜けてるから役員に舐められんだろうが!」
「…気が済んだなら出てけ。俺は忙しい」
「てめぇ…!」
峰岸が再び振り上げた腕は、しかし不自然に動きを止める。桜庭が峰岸の腕を掴んでいた。
「あかんで暁斗。一発ならえぇけどそれ以上はやりすぎや、わかっとるやろ?」
「……」
「暁斗?」
「…チッ。駿太、わかったから手ぇ放せ」
はいはいと桜庭が手を離すと、峰岸は苛立ったように俺のそばを離れた。そしてそのまま苛立ちを発散するかのように、乱暴に他の役員の机のチェックを始める。代わりに俺の前に立つ桜庭が緩く笑った。
「堪忍なぁ瀬戸。暁斗も本気で瀬戸に怒ってるわけやないんやで?」
「あぁ…わかってる」
これは、俺が甘んじて受けなきゃならないものだ。責任者の俺が、私情を挟んであいつらを放っているのだから。そしてこれからも、それを許してもらわなきゃならない。
「けどなぁ、話はしてもらわなあかんよ。なぁ暁斗?」
「当然だ。おい瀬戸、役員はいつから来てない?」
「……。……二週間前」
最早誤魔化すのも諦めて溜め息をついてから答えれば、桜庭の顔が曇る。峰岸が部屋の中央にある来客用のソファに座り込みながらがしがしと頭をかいた。
「例の転入生が来てからか…」
「あの子もなぁ…本人は悪い子やないんやけど」
転入生。そうだ、会ったことがないから忘れていた。
こいつらはもう会ったことがあるんだな。まぁ俺みたいに缶詰めになってなきゃ普通会うか。やっぱ一度会っとくべきだな。
桜庭に促され、峰岸の対面のソファに座る。桜庭は峰岸の隣に座った。
「それで?役員共をリコールすりつもりは?」
「…ない」
そう答えれば、峰岸は深々と溜め息を吐き、桜庭困ったように笑った。きっと、子供が駄々を捏ねているようにしか映らないのだろう、俺の言動は。
だけど、もう少しでいいからあいつらに、俺に、猶予をくれないか。
「あんなへまは二度としねぇよ。会議だって俺が指揮を執る。だから頼む、もう少し待ってくれ」
そう言って頭を下げる。
舐められたまま泣き寝入りなんて出来るわけがない。絶対に本当の通常運転に戻してみせる。
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