Arcadia | ナノ
無駄に豪華な寮の扉を押し開ければ、ちらほらとロビーにいた生徒たちから歓声が上がった。良かった、思ってたよりも人が少ない。そのまま急いでカードキーを通し、役持ち専用のエレベーターへと滑り込む。
本調子ではない今、少ないとは言え彼らに対応するのはやめとくのが無難だろう。特にこれから話さなきゃならない相手のためにも、気力を温存するべきだと思うし。
ちん、と古めかしい音がして到着したのは六階、役持ち専用フロア。しんと静まり返ったそこに流れる静かな音楽がホテルっぽい。
自分の部屋には用がないため、いつも向かうのとは逆方向へ足を進めた。俺の部屋とあいつの部屋が対局の位置にあるのはほんと助かる。あいつと毎朝会うなんて身が持たない、きっと。
ピンポーンと安っぽい音が響く。
見た目は無駄に豪勢なのに、鳴る音がみんなどこか間抜けなのは庶民文化への憧れなのか?なんてどうでも良い事を考えていた俺の前の扉が開いた。
次いで中から現れた美丈夫の気怠げな双眸が―――俺を認めた途端、好戦的に細められる。
「これはこれは瀬戸生徒会長様。こんな時間に何か用かァ?」
「今日締め切りの書類を提出しにきた」
「ほぉ、すっかりお忘れかと思ったぜ。そんで?書類ってのは何時に締め切りかは覚えてんのかァ?」
「……6時半」
「そうだよなァ。てめぇには聞きてぇことが山ほど有るんだ、中に入ってもらおうか」
そう言って、男―――風紀委員長峰岸暁斗(ミネギシ アキト)は愉快そうに笑った。
「てめぇはなんでまだ制服なんだよ?」
「良いだろ別に。俺の私服はレアなんだ」
「あーそうかい」
この学園で絶対的な存在である生徒会長と、唯一対等な存在であるのがこいつ、風紀委員長だ。学園運営の肩翼を担う風紀委員は完全スカウト制で人数制限はない。羨ましい、俺だって誰かスカウトしたい。猫でも良いから誰か手伝ってくれ。
「おい、書類貸せ」
「ん」
手渡した書類をパラパラと確認し始める峰岸は、正直抜群に色男である。
猛禽類を思わせる野性的でありながら整った風貌に、男なら誰でも憧れるであろう厚い胸板からもわかる、1年の時に風紀委員長直々に勧誘されたという腕っ節の強さ。そして何より、母方の祖母からの隔世遺伝だという碧眼。海よりも深く鮮やかなそれを初めて見たときは、青い眼を見慣れていたはずの俺でさえも見惚れた。
「…ん、いいんじゃねぇの」
「そうか、じゃあ俺はこれで、」
「そう急くんじゃねぇよ瀬戸。聞きてぇことがあるっつったろォ?」
ソファにふんぞり返る偉そうな男。
ニヤリと笑うそいつがいらねぇ色気を振りまいていて顔が引きつる。こいつがこんな顔をする時はいつだって面倒くさい、もう帰りたい。何故か初対面から突っかかってきたこの風紀委員長様は、敵に相対しているときが一番色っぽいのだと俺の親衛隊が言ってた。
赤坂といい峰岸といい、俺は一体何をしたんだ?同族嫌悪とか?え、超やだ、こいつらと同族だとか絶対やだ。
「てめぇらしくねぇじゃねぇか瀬戸よォ。無断欠席に締め切り破り?何してんだてめぇは、だらしねぇな」
「黙れ。てめぇに言われたかねぇよ」
「違ぇだろうが。てめぇが一番わかってんじゃねぇのか?」
赤坂と違ってこいつは突っかかってくるから質が悪い。顔を合わせる度に嫌味ばかり言われていたら、俺だってこいつに対する態度が悪くなるのは当然のこと。
だから―――いらねぇんだよ。
いつもみたいに嫌味を言やそれで良い。
そんな真剣な顔すんじゃねぇ。
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