Arcadia | ナノ
「瀬戸…?」
どうしてこうなったかな…と思わず物思いに耽っていると、前から声がかけられた。そう言えば誰かが来てるって流れでバカ共のことを思い出したんだっけ。前方へと意識を戻せば、そこにはホストが立っていた。
「こんばんは、赤坂(アカサカ)先生」
「お前…こんな時間まで?」
「えぇまぁ。そうだ、先生に渡す書類が」
ちょうど良いと、手に持っていた書類の中から数枚引き抜く。それを差し出せば、怪訝な顔をしながらも受け取ってはくれた。
このホスト然とした派手な格好をした人物は、紛れもなく我が校教師の赤坂圭吾(アカサカ ケイゴ)である。そんでもって生徒会顧問。ここで教え始めてまだ3年目ながら、学生時代にここの生徒会だったとかで抜擢されたらしい。
こんな外見を裏切って面倒見がよく、年も近いため生徒たちから人気なこの男と話すのは、実は数えるほどしかない。なんだかよくわからないが一方的に避けられているのだ。生徒会関係の話は全て副会長を通して俺へと伝えられる。
まともに話したことがないからどこに嫌われる要素があったのかわからないが、自分を嫌っているらしい人間にわざわざ近づいていくほど俺は酔狂な人間じゃないし、まぁ仕事に支障はないからそこまで気にしてはいない。
「こんな時間に申し訳有りません。期日は守ってますので」
「あぁわかってる」
「…では失礼します」
わかってるっておい。
こうも冷めた目で見られると流石に傷つくぞ俺でも。仕方ねぇだろう、あんたのお気に入りの他の連中が仕事しねぇんだから俺で我慢しろ。
なんだか理不尽な気分になりながら彼の横を通り抜けようとすると、訝しげな声が俺を止めた。
「…おい待て、どこに行く?」
「風紀委員室ですが」
なんなんだみんなして。
どこ行ったって良いだろう別に。
先のアホな電話を思い出して思わず眉間にしわを寄せれば、少し躊躇ったあと赤坂が口を開いた。
「もう風紀は誰もいない。と言うか校舎に残ってる生徒はお前だけだ」
「…そうですか」
やっぱりか、予想通りではあるが期待外れだ。
あいつが俺の失態をフォローしてくれるような奴ではないのはわかっていたけど。
「ありがとうございます、助かりました」
「いや。お前も早く帰れよ」
「そうします、では」
「ん、お疲れさん」
もう風紀室に用はないと来た道を帰ろうとすると、掛けられたのは思わぬ労いの言葉。僅かに目を見張れば、赤坂は思いっきり失敗したと書かれた顔をしてそそくさと踵を返した。
何だ今の、ツンデレ?つーかあの人何しにこっちきてたの?
しかしデレてもらったとこ悪いが帰りはしない。まぁ一応書類届けるために寮には戻るから嘘はついてないな、多分。届けたらこっちに戻ってくるつもりだけど。
帰り支度をする必要もないため、そのままこの特別塔を出るべく俺は寮に近い昇降口へと歩きだした。
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