Arcadia | ナノ
どうして俺がこんなにも寝不足なのか。
その発端は、二週間前に遡る。
私立北上学園。
初等部に始まり、中等部・高等部・大学部を有するこの学園は、伝統ある由緒正しき教育機関である。
政治家や大企業、旧華族など金持ちの子息が多く通うため、金にものを言わせて建てられた豪華絢爛な校舎。有名大学出身の教師達による分かり易くかつ高度な授業。プロのコックによる三つ星レストランに劣らぬメニューが並ぶ食堂。北上学園生は必ず入室しなければならないホテルと見紛うばかりの寮。
そんな学園の卒業生であるという経歴は、強力なブランド力をもつ。
聞けば誰もが羨むような、国のトップを産み出すのに最適な教育環境。
だがしかし、ただ1つ…否、2つ3つ難点があった。
まず1つ。
北上学園は男子校であった。
右を向いても男、左を向いても男。恋というものは厄介だ。そのことを大人は理解していた。
大切な息子たちの将来を憂う金持ちな親たちのために、男を誘う美しい華は存在しないのである。
そしてもう1つ。
北上学園は驚くほど田舎に建っていた。
最早日本の僻地とでも言うような場所の広大な面積を利用して建てられている。更に外出するには学校側に認められる理由が必要なのだ。敷地内に大きなモールが作られているため、買い物という理由での外出は不可。
大切な息子たちの将来を憂う金持ちな親たちのために、誘惑の多い外界とは切り離された箱庭が作られたのである。
以上の2つは、大人たちが考えてもいなかった結果をもたらすことになった。エスカレーターで初等部から大学部まで進む人間が圧倒的に多いため、余りに刺激のない学校生活。多感な時期を代わり映えしない面子で過ごすことで募ったフラシトレーションの捌け口を………彼らはその代わり映えしない面子に求めたのだ。
イジメに走ったわけではない。
彼らが走ったのは男だった。
つまり、外から見ればエリート揃いの北上学園も、中を覗けばホモとバイの巣窟なのである。
そして最後にもう1つ。
この学園では、家柄がとんでもなく重視される。
ちなみにこれは俺の個人的な意見。寧ろこの、入学した時点で出来上がるヒエラルキーが社会に出たときに大切なのだと考える人間の方が、この学園には多い。だからこそ重視されるのだが。ヒエラルキーの上位に位置する人間には、親衛隊という名のファンクラブまで発足する。
そのヒエラルキーの頂点に立つ存在が生徒会である。
家柄が良く容姿端麗な秀才が集まる生徒会は、北上学園で絶大な人気を誇ると共に、絶大な権力を有していた。教師の権力をも凌駕するエリート集団。そのトップに、後ろ盾がなくしかも高等部からの入学にも関わらず、それをカバーする程の容姿と成績、そして人気により就任した、異例の今期生徒会長。
それが俺、瀬戸拓巳だった。
生徒会のメンバーは前生徒会による指名によって決まる。ヒエラルキーの中で生きる生徒たちが従い、着いていくような人間を選ぶのが、生徒会最後の重要な仕事なのだ。そうして前生徒会から見初められた俺たちは、引き継ぎやらなんやらのため、もうすでに半年近く供に仕事を行ってきていた。
そして確かに上手くいっていたのだ。
―――あの、嵐が来るまでは。
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