Arcadia | ナノ
ジリリリリリリリ…!
「ぅ、ん……」
大音声で鳴り響く騒がしい音。
無理やり眠りから引きずり出されて、でもまだどうしようもなく眠くてもそもそと布団の中で動いてみる。しかしそんな悪足掻きも虚しく、その音は一向に鳴り終わる気配を見せてはくれなかった。
「っせぇよ……」
仕方なくのそりと起き上がって暗い部屋を見回せば、発信源はすぐに発見できた。近未来的なフォルムのスマートフォンが、どこか懐かしい目覚まし音を奏でている。そこでようやく現状を思い出して、溜め息を吐きつつスマートフォンに手を伸ばした。
そうだよな、わかってたよ。
俺がどこかの国の王様なわけがなかった。
「…ん、俺だ」
『おはよう拓ちゃん、よく眠れた?』
「そうだな、だが俺は王に値するスペックはある」
『そりゃあもちろん。我らが王はあなた以外にはおりませんよ』
言われた言葉に数回瞬いて、思わずうげっと呻き声が出た。朝からそんな言葉が聞きたかったわけじゃない。
ちなみに着信音が目覚まし音なのは仕様だ、モーニングコールが来るのがわかっていたからであって趣味ではない。だって目が覚めやすそうだから。一番目覚めやすい音だから目覚まし音て名前なんだと俺は信じてる。
『ところでまだ寝惚けてて可愛い拓ちゃんに残念なお知らせが』
「そうか、残念か…」
『ただいまの時刻は午後7:10です』
「そうか、7時か…………ってはぁぁあ!?」
もそもそと再び布団の中に潜り込んでいた体が、言われたことを理解した途端にガバリと跳ね起きる。次の瞬間クァーンと頭痛がして咄嗟にこめかみを押さえた。寝不足の頭には、予定よりも余分に得た睡眠でもまだ足りなかったらしい。
「っ……」
『拓ちゃん?大丈夫?』
「くっそ、6時前に起こせっつったろ!!」
ベッドから離れたがらない体を鞭打ち這い出ながら悪態をつく。
ああ、もうどうしてくれる!ノルマはまだまだこなせてねぇしあいつに書類も渡してねぇじゃねぇか!どうすんだアレ、確か締め切り今日だったよな?
『ごめんな、でも最近拓ちゃん寝てないだろ?』
「仕方ないってわかってんだろ!」
『そう言うだろう拓ちゃんを丸め込むにはどうしたら良いか悩んでたら、超イケメンな妖精さんが時計を持ってきてくれたわけ。それが一時間遅れだなんて誰も思わないだろ?いやぁ吃驚したなぁ』
「いやお前笑ってんじゃねぇよこの確信犯!」
ごめん俺ダーリンには逆らえないからさと言うのを聞き流しながら、掛けてあったブレザーを羽織る。
あいつもグルかよ、いつかこいつら締める…!こいつらを締めるなんて無理なのはわかってるけど、後ろとかから襲ってやろう。そして丸め込まれてなんか無いお前らが強引なだけだ。
そう、だけど俺は、これが俺を心配しての行為だとわかってるから。だから強くは出られない。
「でもまぁ起こしてくれて助かった、サンキュな。じゃあもう行くから切るわ」
『え!?ちょっと待てどこに行く気だ!』
「仕事に決まってんだろ。提出しなきゃいけない書類が残ってる」
『ちょ、もう委員長いないって!拓ちゃん頼むからもう休んでくれよ!』
「行ってみなきゃわかんねぇだろ。じゃあな」
『ちょっと拓ちゃ…』
まだ言い募ろうとする相手に構わず通話を強制終了。今度会った時にまたうるさいだろうが今は今が大事なのだ。
ガチャガチャと扉のチェーンを外し(仮眠をとると言ったらチェーンかけろとうるさかったからかけた)カードキーで仮眠室の外にでる。途端視界に広がった生徒会室の惨状に脱力しそうになるのをぐっと堪え、自分の机に放ってあった書類数部を回収した。
念のため再度確認するが、もちろん出来栄えは完璧。ミスなんてない。だったら出来た時すぐに届けに行けば良かったって話だけど。でもあん時はもう流石に限界だったんだよな。あん時よりずっと体が軽い気がする、仮眠万歳。
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