Arcadia | ナノ
『―――で、あるからしてー…』
「………」
あぁ、暇だ。
ギシリと音を立ててイスに体重を預け、気分転換に外でも見ようと窓を探すが見当たらない。舞台袖だから仕方ないっちゃ仕方ないんだが……でもやっぱ使えねぇ。
登校してきた時に見た満開の桜は見応えあったよな。あれは思わず立ち止まって魅入ってしまった程だった。春の麗らかな陽射しが暖かい中、あの木の下で寝るのはさぞ気持ちいい事だろう。
今すぐにでも行って寝たい気分だ。きっと今日はあれだ、昼寝日和というやつだから。なのにどうして、俺はこんな所で人の話を聞いて待っている?
「もうちょっとだよ」
校長の冗長な話にいよいよ飽きてきた俺が欠伸を咬み殺していると、隣から笑いを含んだ声がかかった。ちらりと視線をやれば、苦笑いが返される。
「あと4分の1くらいだから我慢しろ」
「……長ぇよ、もう眠い」
「寝んなよ?出番次なんだから」
そう言うお前の後ろで後輩2人が爆睡してんだが。でもまぁあいつらに言っても仕方ないのは俺も解っているから、敢えて口には出さなかった。だって起きた後が怖い。只でさえ手に余し気味なのに、不機嫌になられたらもうお手上げなのは目に見えている。
「でも確かに長すぎだよねぇー。来年からは校長せんせーに喋ってもらうのやめよっかぁ?」
物凄い速さでスマホを弄っていたチャラ男が顔を上げた。その意見には割と全力で賛成したいが、流石に始業式に校長の言葉なしは無理だろう。こんな機会でもなきゃ、普通の教師と違って校長は生徒の前に立つことないんだし。
「無理。今日は理事長がいないだけましだろ」
「えぇーっ!てゆーかかいちょーが長いって言ったんじゃーん!」
「んな事忘れたなぁ」
「あれちょっと?俺かいちょーをフォローしたんじゃなかったっけぇ!?」
「あーうぜぇ」
かいちょーの愛が痛い!と騒いでるのは無視の方向で。だって愛じゃねぇし。
あぁまじ早く終わんねぇかな。
なんだって校長とか教頭って奴らはみんなして話が長いんだ?スピーチは15分以上とか決まりがあったりして。そして俺は生徒の半分は現在夢の中に100円賭けよう。講堂のイスが余りにも座り心地がいいのも原因の一つだと思う。座る分には快適だが、壇上に立つ側としては考え物だな。
「あーもう暇すぎて『爆睡双子ちゃんの傍でかいちょー船漕ぎ中なう(´・ω・`)』て呟いちゃったじゃーん」
「は!?ちょっと待て!なんだその事実無根な呟きは!!」
「だぁって暇なんだもーん」
へらへらと笑うチャラ男に、ふざけんなお前消しやがれ!と掴み掛かろうと腰を浮かせた俺は、横から引っ張られて再びイスへと逆戻り。思わず振り返って睨みつければ、うるさいここ袖だからな?と迫力ある笑顔と伴に尤もな意見で撃退される。
「お前もだよ、そんな無意味なことすんな」
「いいじゃーん!副かいちょーも一緒にかいちょーの有ること無いこと呟こうよぉ」
「無いことは呟くなアホ」
「かいちょーは誘ってませーん。無いこと呟かなきゃ面白くないでしょー?寧ろ無いことがメインですからぁ!」
「てんめぇ…!」
この快楽主義者めもう許さねぇ!なんでこいつはわざわざ俺に絡んでくるんだよ!?愉快げに笑うお前は最早見飽きたわ!
「おい宏紀(ヒロキ)、お前からもなんとか言ってやれ!」
俺が反応すればするほど喜ぶのはわかってんだ、敢えて他人任せにしてやろうじゃねぇか。だがしかし、割と常識人だし、さっき止めてくれたし、というかこいつしか俺ら以外にいないし…と、安易な考えからこいつに任せたのがまずかった。
俺に声をかけられた優男は派手にため息を吐き、その秀麗な美貌を呆れたように歪めた。そして大袈裟に肩を竦めてみせる。
「拓巳(タクミ)が呆れるのも無理ないな。あのな稲嶺(イナミ)、お前ってやることが結局全部無意味なんだよ」
「えぇー?どゆことー?」
「今呟いたってみんな式に出てんだから見れる奴なんていないだろ?お前1分に3回は呟くんだからさ、そういうことは埋もれないようにみんなが見れるときに呟かなきゃ」
「あーそっかぁ」
「せっかく良いネタなんだから無駄にすんなよな、勿体ない」
「はーいっ!」
「ちょっと待て!!」
俺の味方がどこにもいない!!
つーかそもそも良いネタも何も嘘だろうが!
ガタリとイスから立ち上がり、さっきの忠告をすっかり忘れて口を開ける。
そのまま俺が叫ぶのを宏紀よりも先に遮ったのは
――――割れるような大歓声。
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