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不知火さんへ
鈍感風紀委員長×俺様生徒会長







休み時間は必ず話しかけに行く。
偶然を装って同じ時間に食堂へ向かう。
余ったからと差し入れを度々するし、もちろん書類は必ず自ら届けに行く。
端から見たらというかどこから見てもあからさまにアピールしているはずなのだ。それに、何故、この男は。



「おぉ、なんだ会長様じゃねぇか、偶然だな」



この男だけは、欠片も気づいてくれないのか。

偶然?偶然なわけがあるか。本当にそう思ってるのか。思わずそう聞いてしまいたくなる。
この俺がこんなにも恥も外聞も捨ててアピールしているというのに、当のこいつは本当に呑気で。気持ちをひた隠しにしていた頃は何様俺様生徒会長様と恐れられた俺が、これじゃ埒が明かないと気づいて必死のアピールを開始した結果、今や片想い不憫会長と哀れまれてしまっているというのに。



「偶然じゃねぇよ、俺が一緒に行きたかったから」
「そうなのか?なら待たせたんじゃねぇか?」
「いや大丈夫、待ってない」



まるで恋人のような会話。
このまま手を繋いで歩き出しても違和感はゼロだろう。
だけどこいつにそんな気持ちは欠片もないのだ。そして俺の方にそんな気持ちがあるなんてことも、欠片もわかっていない。

どうしてなんだ。どうしてお前は、この俺が待っていたという事実に疑問を持たない?
最早最近は悲しみを通り越して驚き呆れる。何なんだ、お前はアホなのか。



「なぁ、なんでこの俺がわざわざ待ってたのかとか、気にならないわけ?」
「いや別に…」
「じゃあお前のことが好きだからって言ったら信じるか?」



ちらり、隣の男の顔を盗み見れば、こちらを向いていた目と目が合う。驚いて、というか心の準備が出来て いなくてパッと逸らすとくつくつと聞こえる笑い声。
あーもう、何が悲しくて片想い相手と擬似カップル体験をしなきゃならないんだ。



「俺もお前のことは好きだからいいんじゃねぇの?」
「違う!そうじゃなくて!」
「あー?」
「LIKEじゃなくてLOVEだって言ってんだよ!」



両手首を掴み、ドンと壁に押し付ける。
いい加減その鈍感っぷりに堪忍袋の緒が切れそうだ。
いや、もう見事に切れたか。



「このままキスしたいし押し倒したい。そういう意味で好きだって言ってんだ!いい加減気づけコノヤロウ!!」



勢いでそう吐き捨ててから我に返った。
言ってしまった。ついに言ってしまった。
大きく見開かれる瞳。まじで…と呟く唇。困ったようにハの字になる眉。
心臓が、五月蝿いくらいに胸を叩く。



「そうか…LOVEなのか…」
「……」
「お前が、ねぇ…」
「わりぃ、かよ」
「いや、悪くはねぇよ」
「んっ…――――え、ちょ、まじで?え?」



超至近距離に見える想い人の顔。
心臓と喉が可笑しな音をたてた。

今、今もしかして、もしかしなくても、俺、キスされた…?



「うん、悪かない」
「お、おま、おまっ…!」
「考えるから、ちょっと待ってろ」



震える手がそっとほどかれる。真っ白になっている頭を何かがぽんと撫でていった。
崩れそうになる脚を叱咤して、ふらふらと後ずさる。視界の隅に映る颯爽と去っていく男。トン、と後ろの 壁に背中がついた。



「――――っ!」



脚の力が抜け、ずるずると壁づたいにしゃがみこむ。


やばい、これは、やばい。
たったこれだけのことで、体のコントロールが利かなくなるなんて。真っ赤であろう顔を膝に埋め、乾いた 笑いを漏らしてしまう。
好きすぎて、怖い。
これ以上を求めたら、きっとおかしくなってしまう。

そう本気で考えていた俺はまだ知らない。 数日後、本当におかしくなってしまうことを。





―――――
TwitLongerより
Twitterでの2013年お年玉企画でリクエストして頂きました



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