どこまでも思い曇天だ。こういう気分の時に晴れていてほしい空に限って曇っている。重く、押しつぶされてしまいそうだ。それでも下を向けない。一瞬でも下を向いてしまったら、なんだか泣けてしまう。今の私は酷い顔をしているに違いない。でも知らない。自分の顔なんてどうでもいい。誰も来なければ。 と、思っていたら屋上の扉が開いた。清掃中の札を勝手に下げていたのにも関わらず。誰だ、もう。振り返って、思わずげっと声が出た。今一番会いたくない先輩だった。 「酷ぇ顔でさァ」 どこから聞きつけたのか、どうやら私の放課後の告白の顛末を知っているらしい。いやらしい顔をしながら近づいてくる。これだから会いたくなかったんだ。なんて言われるかわからない。 「言われなくてもわかってます」 「わかってんならどうにかしなせェ」 「どうもできないっすよ、どうも…」 だって先輩、私ふられちゃったんですよ。顔なんてどうにもできっこありませんよ。 泣きそうなのがわかって、そんな顔やっぱり見られたくなくて顔を伏せてしまった。じわり。広がっていく波紋を、ぎゅっと目を閉じて堪える。泣くもんか。唇をかみ締めてると、いきなり両頬をはさまれて上を向かされる。これがそっと触れるような手つきだとときめくところだけど、思いっきりの力で頬を潰さん勢いで、危うく涎出そうになったくらいだ。 にやにや。歪められた顔がそんな顔の目の前にある。意味がわからない。 「何すか」 「笑える顔してらァ」 「…あんま見ないでくださいよ」 どんどん惨めになるじゃないですか。また歪み始める視界に目を伏せたら、再度顔が上げられる。訳がわからず、眉根を寄せる。先程のにやにやした顔とは違うなんとも言えない、不機嫌な顔とも考え事している顔とも無表情ともとれる表情に一瞬怯む。だけど、文句の一つでも言おうと息を吸い込んだ瞬間、 「いは、いはいいはい!はなひへくははい!」 両方の頬が左右に思いっきり引っ張られた。それはもうほっぺた千切れるんじゃないかって勢いで。人がセンチメンタルな気分なのに、この人なにやっちゃってるんだ。両手を掴んで抵抗するも敵わない。それどころかもっと力が入れられて涙目だ。 しばらくして放してくれた勢いで私はきれいとは言えない屋上の床に倒れこんだ。私の両頬のライフはもうゼロだ。痛い。泣きそう。いつの間にか立ち上がっている沖田さんに見下される形になっている。なんだかもう腹が立つ。先輩だけど殴って良いかな、良いよね。そんなことを思っていたら沖田さんがしゃがんだ。顔が、近い。 「あんたを泣かすのは俺だけでいいんでさァ」 今まで見た中で一番男前な笑顔だった。言ってることは最低なのにちょっと、ときめいた。不覚にも。口が裂けても言わないけれど。両頬はまだ痛いし、怒ってないわけじゃないんだ。 「…何すかそれ」 「そういうことでィ」 「はぁ」 きっとショックが大きすぎてときめいてしまっただけなんだ。そう自分に言い聞かせながら涙が止まっていることと、沖田さんをまっすぐに見れないことに気がついた。 最低な振る舞いをした後に男前なことをする沖田くんが好き。ギャップ万歳。 11.0930 ■ |