突然に触れた。柔らかくて温度があって、でもぼんやりとしかわからない。なにしろいきなりのことだった。近すぎてピントが合わなかった彼の目からは何も読めない。しかし、数えるほどの経験でこれがキスであることはわかった。 「…なにしてんの」 右肩に置かれた手と腰に回された腕。その温度が居心地悪い。自然と下がった声のトーンにも沖田は動じない。 「なんとなく」 「発情期かって」 「どうせならもっと女子っぽい反応してくだせぇよ、きゃ〜とか、なにするの〜とか」 「なんだそれ」 自分からしておいてさらに要望とは。眉を寄せながら、女子高生の唇は高いぞ、とトーンを変えずに脅すと、かわいくねぇと返ってきた。文句言うならキスするな。未だに肩に添えられたままの沖田の手を払う。簡単には取れないところがさらに腹立つ。むきになって手首を掴んで離せば逆に手を握られてしまった。これで私が沖田の肩に手を回せば舞踏会スタイルの完成だ。あ、ちなみにここ笑うところです。私はピクリとも笑いませんが。 「なに考えてるの」 「いやぁ、誰か来ねぇかなって」 「は?」 「少しでも敵は排除したいんで」 「戦ってんの?」 「まあ、そんなとこでぃ」 ちなみに今のかわし、笑うところです。もちろん私は笑いませんが。スパイ映画の主人公がパーティ会場で女を抱き締めるふりをしてターゲットを見張るシーンを想像して少し愉快になった。この放課後の教室には緊張感の欠片もないが。窓から入る夕日に照らされて抱き合うなんてロマンチックで、それこそ映画にあってもおかしくはない状況だと言うのに。 「誰も来ないと思うけど」 「まあ、そんなこともありまさぁ」 「いい加減離してよ」 返事はない。ただ、腰に置かれている腕の重みが増した。離さないということらしい。ポーカーフェイスと相反する態度に訳がわからなくなる。 「離してほしければもっと抵抗すりゃあいいじゃないすか」 「あんたが喜ぶんでしょうそれ」 不敵に笑うも、陥落まではもう少し。 「高校生だろうが恋は戦争」が副題 高校生の駆け引きを書いてみたかったんです 130207 ■ |