いい加減疲れた。来る者拒まず、去る者追わずで何人もの人と付き合う幼なじみの傍にいるのは。もうこれ以上心臓が搾られるような痛みを、感じたくなかった。自分が壊れる前に、逃げてしまいたい。 だから、キスをした。これを最後にするなら、殴られようが罵られようが構わない。 「私は、ずっとあんたが好きだったよ」 はたから見たら、一体この光景はどう見えるんだろう。無抵抗で驚いた様子の男に、女が噛み付くようなキスを、泣きながらしている、なんて光景。頭の片隅でわらう。 ひとつの恋愛の別れ際だと思うだろうか。実際は違うけれど、こう考えるのがほとんどだろう。ここには二人しか居なくて、はたも何もないけれど。そうして、二人きりだからこそ、唇が離れたあとは沈黙が続いた。 「ごめん、忘れて」 その沈黙を破ったのは私だった。経過時間は10分くらいと思ったけれど、実際は1分も経っていないかもしれない。わからない。相手はいつもと変わらない無表情ではあるけれど、重い、重過ぎる静かさだったから、時間の経過を気にする余裕なんて、ない。実行の前にはどうとでも、と思っていたくせに、現実は震えて情けなく走り去りたい衝動に負けそうになっている。だから、こんな情けない姿が残るのは私の海馬の中だけであってほしい。どうか、忘れて。 「それじゃ、ね」 「待ちなせェ」 予想外に伸びた腕が、私の肘の辺りを掴む。これ以上何があるんだ、一刻も早くこの場から立ち去りたかった私は羞恥からくる苛立ちを抑え、振り返った。 笑顔だった。目の前にある顔は、口元に笑みを浮かべていた。混乱で動けない身体が、微かに動く唇を捉える。それも一瞬のことで、身体が前のめりになったと思ったら目の前が真っ暗になった。抱きしめられている。総悟に。逃げようと、離れようと力を入れると更に後頭部が抑えつけられる。途端、苦しくなった呼吸で、嗅覚が感じ取ったのは昔から知る匂いで、じわりと目の前が滲んだ。 「は、離して」 「……」 「そうご、どうして」 「…っと、…」 「なに?」 「やっと、言いましたねィ」 その表情は見えないけれど、声は喜んでいるように聞き取れた。 「え、付き合ったふり…?」 私の涙が止まってすぐだった。 今まで私が総悟と付き合っていたと思っていた女の子は、実際は土方くんを好きな女の子で、土方くんのアドレスやら私物やらを餌に総悟の『付き合っているふり』に協力していただけ、だったらしい。ざっと説明すると。 なんて男だ。しかしそう思う私自身が元凶で、それに喜びを感じている私がいるのは、事実だ。土方くんには悪いけれど。 「ってことで俺と付き合って下せェ」 「…うん」 11.0824 勢いで書いたら大体終わり方が悪い、反省 ■ |