短編 | ナノ

可愛げがないなんてことはない。好きな人のことならいちいち、好きなものだとか、誕生日だとかメモを取ってまで覚える。スケジュール帳を買ったらまず最初に誕生日に名前を書き込む。挙げ句の果てに朝番組の占いで彼の星座とわたしの星座を比べて、どっちが順位上だとかで遊んだりする。わたしが負けてるときは見なかったことにしたりするけど。まあ、だから、好きになった人のことはどんなときでも考えてたりする。ほら、可愛げのある乙女でしょ。獅子座だけど。
でも、どんなに相手のことを考えてても言葉にはしない。というか表に出さない。というかできないし表にだせない。だから大抵『なに考えてるかわかんない』でフラれる。そうしてこの一週間前にも別れを告げられたばかりだ。すこしはショックだ、ほら、乙女だから。



「そんな訳で、今はフリーですがなにか文句でもありますか沖田くん」
「へぇ、意外ですねフリーだなんて、あんた男前なのに」
「うん、ねぇ喧嘩売ってる?女に男前って喧嘩売ってるよね、売ってるね」



いやぁ傷ついたわぁ。ちくっと刺さった小骨のような痛みを隠して大袈裟にため息をついた。そんなリアクションしても、鼻で笑われるのみだった。挙句、まぁ俺はあんたより男前な自信ありやすけど、なんてのたまいやがった。ちらり、横を見るもベビーフェイスがポーカーフェイスをしているだけで、にやりともしない。ほう。



「言うねぇ沖田くん」
「んな褒めねぇでくだせぇ、照れるや」
「うん、特には褒めてない」
「って訳で付き合いやしょう」
「う…うん?なに、突然。ってか誰が」
「あんたが」
「…誰と」
「俺と」
「なんで」
「なんでも」



ムードどころか脈絡もへったくれもない。さすがに冗談だろうと見つめるも、奴、いつもどおりの顔である。といっても、彼とはあんまり話さないから、ちらりと見たときの顔しか知らないけど。冗談でしょう。薄ら笑っても、その目は揺らがなかった。え、うそだ。
居心地が悪くなって机の上で腕に顔を埋めた。発言にも驚いてはいたが、てっきり彼女がいると思っていたから余計驚いた。ちなみに、冗談だと思った理由も半分はこれだ。
しかし冷静に考えて、これだけの男がほっとかれるなんてことがあるんだろうか。性格には難があるとは言えど。声をかける女なんていくらでもいるだろう。どうしてわたしなの。
と、考えたところでうじうじと、あまり好きじゃない考え方になっていることに気がついて、思わず目を伏せた。やだやだ、近頃の男は女々しいなんて言えない。うあーっと声にならない声を出して身じろぎする。やだやだ、全くこれだから女は。男は。



「別に俺は誰でもいいわけじゃありませんぜ」



極めつけにこの色男はそう言った。もうなんか、つくづく決まるな。ため息を一度つくと、もう一度吸い込んだ。無理やりな深呼吸のおかげで、心を決めた。
どうにでもなってしまえ。責任はわたしを選んだこいつにある。



「…かわいいこと言わないよ」
「言わせてやらぁ」






12.1022


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