うんざりだった。悪魔の退治の仕方だかの授業をじっと聞くことも、それを周りは真剣に聞いているということも、真剣に聞いていない生徒が私だけだということも。全てが、根底にある親に決められた職業に就くということから発生してるような気がした。 休憩時間になるとイヤホンを鞄から引っ張りだす。眠気を堪えていた分眠かったけれど、今寝ては次の授業に響くと思っての眠気覚ましにと、とびきり明るい曲を選んで再生ボタンを押した。かかり始めた好きな音楽。あまり流行りとは言えないバンドの曲だったけど、私は好きだった。だから、目を瞑ると幸せだった。所詮は現実逃避とわかっていても。 しかしそれはそう長くも続かなかった。 三曲目のサビに入るというとき、突然右側が開けた。 「なあ、いっつもこのバンドの聴いてるん?」 咄嗟に振り向いた先には派手な金髪の男子がいた。名前は、ぼんやりとなら思い出せる。ぼんやり、というくらいだからあまり話したことはない。私とは正反対で、自分が将来なるだろう職業やその生まれに誇りを持っているような生徒。そんなわけだから私は苦手な方だ。だから自然な振る舞いで話し掛けてきた彼に少し戸惑った。しかもRのイヤホンが彼の右耳にある。それも少し私の動きを止めた。 「あ…、うん」 「なんていうん、このバンド」 「えっと、」 聞かれるまま答えると、彼は気のないような返事をして、口を閉じた。まるで右に耳を澄ましているように。つられて私も黙った。騒がしい人だと思っていたから少し意外だった。 しばらくして、彼が呟いた。 「えぇな、これ」 「え?」 「俺はこれ好きや、て」 彼と目が合った。なんだか、自分の無知さを悟った気がした。私は何も知らない。 でも、彼は何か知ろうとしてる、掴もうとしている、進もうとしている。それはすごく輝いて眩しい。 その時、誰かが彼を呼んだ。ドアの方で、彼といつも一緒に寮まで帰っている男子たちがいた。あ、と振り返って気付いた彼が呟いた。 「堪忍、俺帰るわ」 そして、慌てたようにイヤホンを押し付けて、自分の席から軽そうな鞄を掻っ攫っていく。 「あの、」 口が勝手に動いてた。 「…んあ?」 「明日、CD持ってく、る?」 勢いで言い始めてから、もしかしたらお世辞だったかも知れないな、と思って顔をうかがう。何言ってんだろ。しかも急いでるだろう、こんなときに。そう思って、ごめん、と言いかけたところで彼の表情に気付く。 「おん!えぇの?」 「う、うん」 目が輝いていた。反対の意味で慌てた私は、どぎまぎしながら頷いた。まさか、ここまで喜んでもらえるとは思ってもみなかった。 帰る背を見て、羨ましいことが少しだけ、悔しかった。駄々をこねているだけではいけないと思えた。それから、私に触れた彼を知りたいと思った。どうして彼はあんなに眩しいんだろう。それは親だとか、生まれだとかそんなことは到底関係ないんだ。私は何をやっているんだろう。 ここに通うことが進むことに繋がるんだ。そう思えた今日が春だと、脳裏の金色を思い出して太陽の陽と重ねる。春だ。雪を破り春へ進む。 これが私と志摩金造との始まりだった。 12.0326 春っぽい話をと思って書いたけど、わたしの住むところでは雪が降ってるよ、ふー 金造はすごく眩しいと思う ■ |