その人は花のように笑う。目を細めて、ほんに幸せそうに。今日もまた、 「あ、廉造くんだ」 その笑顔を振り撒いてこちらに手を振り、向かってくる。彼女は俺を見かけるとよく構ってくれる。他愛もない話をして、暫くしたら仕事に戻っていく。短いながらもこの時間が好きだ。 今日もおキレイですわあ、なんていつもの調子で言っても、褒めても何もでないよ?と、はにかむ。ほんまですよ。お世辞ではなく彼女はキレイだ。 「廉造くんが正十字通うなんて…もうそんなに経ったんだねぇ」 彼女がしみじみとそう呟いた。 この人はもともと明陀の人間じゃない。塾で柔兄と出会って、そのままここで働くようになって、いまもこうして祓魔師として、過ごしている。初めてあったのが俺が小学生くらいの頃で、あの頃と比べたら俺もええ男に成長して、ついに来月からは正十字学園での生活が待っている。 「身長もこんなに高くなって、あの人抜かすのももう少しかな」 そう言いこちらに手を伸ばして、ぽんぽんと頭を撫でる。触れた体温に、心臓が跳ねたのはここだけの話。 あの人、とは、言わずもがな彼女の恋人のことで、それはつまり俺の10歳年上の兄のことである。背は抜かせたとして、到底俺が届くこともない。 何となしに話をそらしたくて、咄嗟に思いついたことを口にする。 「髪、伸びましたよね」 「ふふ、ありがとう」 あの人が伸ばしたらって言うから伸ばしてみたの、そう言って遠い目をして微笑むのに、笑顔の裏側で胸が締め付けられる。あほか、俺。自分で墓穴掘ってもうた。でも、その微笑みに惹かれたのは事実で、目を逸らすことも出来ず。彼女の髪の毛先を見つめて、長いのも似合ってますよ、と曖昧に笑った。 もしも彼女が、柔兄に惚れてなかったとして、果たして俺と付き合ってくれることはあるんだろうか。答えはわかっている。柔兄に出会わない彼女に俺はほぼ100%の確率で会うことができないんだから。 結局のところ、俺に都合のいいハッピーエンドは見つからないらしい。 11.0919 切ない恋と廉造くん もう少し、こう、自然に書きたい ■ |