短編 | ナノ

今は永遠じゃない。そりゃあ、今って言うくらいだし、多分一瞬なんだから、ずっと続く訳ないだろう。だから、私の人生を一本の線で表したとしたら、今はその上に置いた点だ。その点は時々大きさを変える。でも点に過ぎないから、すぐに過ぎる。今、この今も私は意思があろうがなかろうが、未来に進んでいる。今が過去になる。そしていつかさよならが来る。
私はどうにかこうにか、この考えを避けようとしてきた。馬鹿みたいだけど、考えなければ避けれるんじゃないかって信じてた。でも、目の前の紙が突き付ける。避けられない、未来のこと。





(希望する進路、か…)





真っ白なその紙は、私の手にあって、進路希望調査なんていう。提出は今週末まで。まだ何も書いていない。書くことができない。決まってないんだ。まだ。逃げてきた分のつけだぞって、真っ白さがせせら笑う。そうして思い知る、今は今なんだってこと。
どうしたもんか。大学には行きたいけれど。やっぱり、どうしても今のままではいられないものだろうか。なんて、甘ったれてるなあ。体育座りで空を見上げる。曇っている。でも雲の流れは速い。形を変えていく雲の中から、太陽がのぞけばいいのに、と願っても思い通りにいかない。
いつの間にか隣に来ていた悠太が、私の手元を覗き込んで、あぁ、今朝配られたやつ、と呟いた。そこで、ここが屋上で、今は昼食をとっていたんだ、ということを思い出した。いけないいけない。笑わなきゃ。





「もうこういう時期なんだなあって思ってさ」
「あー…あと少しで3年生だもんね」
「うん。…3年生、か。3年生だよ、悠太。想像してた?」
「想像するも何もそりゃあなるでしょ」




いつもよりぎこちなく笑いながら、なんだか泣きそうになった。だって、あと少しの更にまた後には、こうしてお昼に悠太と話すことができなくなってしまうのかな、それはいやだ。だって、今までずっと一緒だったのに。遠くなっちゃうの?いつかが来てしまうの?突然黙った私の名前を、悠太が呼ぶ。





「なんか、センチメンタルっていうの?」
「…はい?」
「いや、だから感傷的になってる、って言ってるの」
「いやいや、そういう意味じゃなくて」
「…柄じゃないってこと?」
「まあ…」




ごほん、と悠太が咳払い。あぁ、そういうことですか。いつも馬鹿みたいに元気だっていうのにいきなり目に見えるくらい落ち込んじゃって。じゃあ、柄じゃないついでに、全部吐き出しちゃおうかな。将来の不安だとか、さよならの怖さとか、云々。
そうしてぼそりぼそりと口を開けば情けなく思えた。けれど、悠太はちゃんと聞いてくれたから、また泣きそうになった。ほんと、柄じゃない。
言い尽くしたような気になって、口を閉じると、一瞬静かになった。





「そんなに遠く行かないよ」
「…でも、わかんないじゃん、そんなの。いつかさよならしちゃう」
「まあ…それは、うん。でも少なくとも、今すぐは行かないよ」
「…うん」
「それに、」
「うん」
「置いてかないよ」





なんとなく、どうして悠太が私の傍に来たのかわかった気がした。悠太は周りをよく見てるから。悠太はやっぱりお兄ちゃんで、かないっこないなあ。





「悠太、ありがとう」
「どういたしまして」
「あの、さ、」
「…その前に、」
「え?」





悠太がいきなり、ばっと振り返った。つられてその方向に振り返ると、いつもの5人がなにやら慌てている。悠太がため息をつく。まさか、見られてた?気付いた途端に、なんだか気恥ずかしくなって、進路希望調査書を小さくたたんでポケットにつっこんだ。さよならは、きっと言わないよ。








11.11

nebulaさまに提出
遅刻申し訳ないです
そして気に入らなくて何回か書き直した挙句こんなぶっつり終わっていいものか…
今更ながらアニメ化おめでとう!
毎回テレビの前でにやにやしてます


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テーマ「人外ファンタジー」
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