※志摩に過度なくらいやたらベタベタされるお話です 塾の教室で本を読んでいると、首の辺りに誰かの腕が回された。普通なら驚くことなのかもしれないが、誰か予想がつくので、何も驚かない。むしろこれが普通だ。誰か、なんて白々しい。廉造しかいない。 「何読んでますの」 「見りゃわかるやろ、小説や」 「そやなくて、」 「あぁ、作者?」 「おん」 「星新一。知っとる?」 「…知らん」 「やっぱり」 志摩廉造は女の子誰にたいしてでもへらへらしているが、うちにたいしては比じゃないと思う。へらへらというかベタベタしてくる。それはもちろん廉造の女の子好きに起因しているのもあるが、ものごころついた時から一緒にいた同い年の異性だからというのもあるんだと思う。うちもうちで廉造に抱きつかれるのには慣れてしまっているからなんとも思わない。ただ真夏は暑いから勘弁しろ、とは思う。廉造と仲がいい勝呂くんも三輪くんも小学校のその以前からこの光景を見ているからか何も言わない。いや、もしくは呆れて何も言えないだけか。 「何匂うとるん」 「…名前シャンプー変えたん?」 「別に変えてへんよ」 「え?でもいつもと違う匂いしますえ」 「あー、体育あったから制汗剤やないかな」 「ほうか。いつものも好きやけど、これも好きやわぁ。えぇ匂い」 「おおきに」 ちなみに今、廉造は相変わらず小説を読むうちの首や肩の辺りを匂ってる。柔らかい髪が首筋に触れて、ちくちくする。廉造はそんなのお構いなしだが。ちなみに、何が楽しいのか、これはよくやる行動だ。 それを見た出雲ちゃんが、げ、という顔をしたのが視界の端が見えた。 「出雲ちゃんそないな顔せんといて、うち慣れとるさかい平気やから」 「…それに慣れてるあんたもあんたよ」 「そう?ものごころついた時からやったら慣れるで」 「名前ちゃんと志摩くんって仲良しさんだね、本当の家族みたい」 「ほんと、なんか名前って志摩の母ちゃんみたいだよな」 「あら面白いこと言わはるねぇ、燐くん」 「名前俺にも構ってぇな」 「あぁすまんすまん」 出雲ちゃんが吐き捨てるように、気持ち悪、と呟いた。まあ、確かに傍から見たら異常かもなあ、と思いながら、廉造の頭を撫でてる。高校生にもなってくっついてくる廉造を、かわいいと思ってしまううちもうちなんだろうか。 11.1009 変な人に馴染むと普通であることが変で変なことが普通になり慣れるがそれは普通の人の間ではやはり変であることに違いがないので普通ではない というのを略したタイトル 犬っぽい廉造を書きたかっただけです ■ |