短編 | ナノ

誰もがささめきあいをする昼休み。どの子がどうしたとか、そういうのに耳を傾ける気にもならなくて、窓の外を見遣る。空に浮かぶ雲は薄く、鱗の雲で、植え込みの辺りには飛び交う赤とんぼ。今朝は道の脇ですすきが揺れていた。秋、だ。もう秋になる。それとも、まだ秋というべきなのか。一日一日は長く感じるような、でも季節は足早に行き過ぎるような、不安定な時間軸ではどういうべきなのかはわからない。





「ねー、名前は何にする?」
「……え?」
「え?ってなんや、聞いてなかったん?これ、」





話はいつの間にか誰かの近況から、雑誌の話に移行していたらしい。眼前に突き出されたのは、ちょうど心理テストのページ。…あぁ、どれを選ぶ?ってこと。質問、AからDの選択肢、それから『直感で選んでね!』とウインクする挿絵の女の子、にさらっと一通り目を通す。





「Dかな」
「ええとね、Dは…」





雑誌を手にした子が、ぺらりとページをめくる。ちらりと見えた先程の挿絵の子曰く『恋愛についてのあなたのタイプがわかるよ』、らしい。





「ずばりさみしがりタイプ!遠距離恋愛はニガテかも、だってさ」

















たかが心理テストだし、あんまり当たってる子もいなかったみたいだし、何も、気にすることはない。それでも、たかが心理テストに動揺している自分もいる。
いま、私は京都にいて、ここから離れた東京に、彼はいる。どう手を伸ばしても届かない距離を除けば普通の恋愛。現代の文明の有り難さで、ボタンの操作で繋げることはできるけど、言葉を交わすことはできるけど、足りない何か。それでも、今朝揺れるすすきを見たときから頭から離れなかった姿と、さきほどからの不安定さに、かけずにはいられなくて。液晶画面とにらめっこする帰り道。約10分考えこんで、決めた。ボタンを押す。繋がるまであと、もう少し。
ねぇ、遠距離恋愛をニガテっていうけど、トクイな子はいるの?





『名前?どないしたん』





相変わらず、能天気な声。久々に聞く声が発したのが、自分の名前だなんて、そんな小さなことに喜んでしまう。安心できる声に、寒くて強張った頬っぺたも緩む。こういうとき、好きだなぁ、って思う。ただただ、理由もなく。





「別に。用って訳やないけど」
『さよか』
「久しぶりやね」
『ほんま、久しぶりやな』
「いま時間、大丈夫?」
『おん、平気やで』
「…そか、よかった」





でも、やっぱりだめかもしれない。泣いてしまいそうになる。安心し過ぎて。あったかくて。それに、繋いだら繋いだで、次は切るのが怖い。
だらだらと話を続けながら、終わるのを遠回りして避けている。まだ、終わらないで。





「なぁ、金造」
『なんや』
「もう秋やねぇ」
『いきなしやな』
「秋は、人恋しなるわ」
『は、何言っとんねん名前』
「……ごめ、ちょっとね」





冷たい風が目に凍みた。それだけで視界に溢れ出す涙に、苦笑する。だめだなあ。最後に会った日の私はもう少し強かったと思う。マフラーを口に押し当てて、思いっ切り息を吸い込む。泣く訳にはいかない。納得行くまで説明させられかねないし、何より電話口の能天気さが悔しい。





「…金造、」





私って遠距離恋愛がニガテなんだってさ。だから、ここまで堪えられたのは奇跡だと思うんだ。それは君だったから、私の恋人が他ならぬ金造だからなんだよ。ばかで俺様で、どうしようもない奴だけど、君なら待ってもいい、寂しくてもいいって、頑張れるって思ったんだよ。…調子乗るから口が裂けても言ってやんないけど。





「…頑張ってね」
『当たり前や、金造さまやぞ』
「うん、そうだね」








11.1002
初めて金造のお話書きました
個人的に、金造は夏って感じします
あ、でも逆に冬にばか元気なのも金造って感じする
あとスノボのウェア似合いそう(笑)


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -