擦り減った靴を買い替える暇もなく働いて、時々空しくなりながら、それでも生活している。ノルマがあがるから、日に日に忙しさは増すばかり。会社近くの小川沿いに設置してあるベンチで昼食を食べれたらその日は幸運。でもここのところ、それすらままならない。だから今日は本当の本当に珍しく幸運な日だ、と思いながら、小川沿いのベンチにておにぎりを口に運ぶ。そうしながら、頭の中からどうにかこの時間だけでも仕事を追い払いたくて、頭に浮かんだのは、憎らしいことにあの銀色頭だった。その流れでこの間、といっても随分と前、銀ちゃんのところに晩御飯を作りに行った時のことを思い出した。 「どうして銀ちゃんを選んだアルカ」 晩御飯あと、唐突に、私をじっと見つめながら神楽ちゃんが尋ねた。隣で銀ちゃんがみそ汁を吹き出し、やたら焦っていたのを尻目に、私はなんと返答しようか、困ってしまった。確かに、なんで銀ちゃん。こんなニート寸前、いやニート同然などうしようもない人。どうして。その疑問は自分じゃなく、そのまま口に出て神楽ちゃんに向かった。 「どうしてそんなこと聞くの?」 すると返ってきたのは、目の前に座る銀ちゃんに遠慮も容赦もない辛辣な言葉。極めつけ、最後にこう吐き捨てた。 「あたしならこんなの願い下げネ」 お茶を喉に流しこみながら、いまなら答えられるなあ、と思った。仕事に追われて自分を見つけられないいまなら。 私はね、芯のあってかつ自由な銀ちゃんを尊く思うんだよ。だから一緒に居たい、添いたい。寧ろどうして私なの、銀ちゃん?って尋ねたいくらい。 ねぇ銀ちゃん、多分面と向かっては言えないけれど、銀ちゃんがどっか行っちゃっても、私、探し出すよ。絶対に。なんて、少しだって届きもしない、よく転ぶ私が言えることではないかもしれないけれど。いつの日かそっと隣に寄り添うことができたら、その時は同じ景色を見れるようにいたい。だからその為に今は足掻いてみるよ。 11.0808 BGM/私生活(東京事変) ■ |