ばかだろおまえ | ナノ

いつだったか、そうだ、たしか沖田が2年の時だ。銀八が「お前今日誕生日なんだって?」ってニヤニヤしながら補習課題渡してるところに遭遇して、偶然知ったんだ。懐かしい。銀八なにしてっかな。
7月8日。沖田の誕生日。今日のことである。昨晩、徹夜で課題の消化をしているときに思い出していた。そのときは、購買で買ったなんかを渡したはずだと。思い出せなかったけど。



「おめでとう」
「なにが」
「なんでしょう」
「…嫌味?」
「何に対しての?」



トイレから戻ってくると、昨晩バイトで遅く帰ってきた沖田は、「眠いです」というのを隠そうともしない顔でソファーにボケっと座っていた。だるくてわざと「ねみぃ」と言っ
てるのとは違う、素で眠そうだ。普段の腹が立つ様子とのギャップで、童顔が余計幼く見える。



「っぶふ」
「なんすかきもちわりぃ」



急におかしくなってきた。誕生日すら偶然知ったような間柄だったのに、今じゃ一つ屋根の下、外では見られない顔まで見てしまっている。色気も何もないけど。あっても困るけど。でも食費かさむから色気より食い気も困るけど。そう、屋根の下は屋根の下でも、下は火の車だ、屋根付き火の車。



「違うよ、誕生日今日じゃん」
「……あぁ」
「反応薄」
「んなことよりねみぃ」
「1講からでしょ、起きてよ。バイトのせいで眠くて休むとか許さないから」
「んだよ母ちゃん今日は午後からでさぁ」
「お前起きてんだろおい馬鹿にしてんのか、母ちゃんじゃねぇよ」
「うるせぇばばあ」
「そうかそうか、沖田くん。誕生日プレゼントはげんこつにしてやろうか」
「あー…はいはい起きます起きます、起きてやらぁ。ったく先輩毎年それでさぁ」
「え?なにが?」



なんで呆れられたんだろう。っていうか毎年?私が祝ったのは高校2、3年のときと沖田がうちに来た去年だけだ。うち高3はメールだったはず。なにが『毎年それ』?毎年げんこつなんてプレゼントしてない。そんな物騒じゃないはず。たしか。たぶん。おそらく。



「高1の時も『おいこら殴るぞ』って言われやした」



言ってたらしい。自分が思うより過去の自分は物騒だった。過去は美化されるってことを身をもって実感した。



「あ、違う『てめぇこの野郎殴って気絶したところを縛り上げて引きずり回して顔面破壊させてやらぁ土方ァ』って言ってました」



違うそれ絶対私じゃない。土方くんにはブチ切れてもそんなこと言わない。



「明らか沖田じゃん、私じゃないし」
「またまたぁ」
「何その顔?!お前だわ!少なくとも『土方ァ』はお前だわ!」



そこでふと気づく。高1のころ、私は沖田についてそこまで知らなった。何しろ、新入部員の中でも沖田は一番わかりにくかった。性格が歪みすぎてて。でも高1の時にも誕生日に何かしらのことをしてたのか。


「高1の時誕生日知らなかったはずなんだけど、そんなこと言った?」
「へぇ、でもプレゼントはもらいやした」
「うそ」
「調理実習だかで」
「なるほど」
「んで『これ食えるんすか』って聞いたら『殴るぞ』って」
「そりゃいうわ」
「さすが先輩、歪みねぇや」
「ほめるとこじゃない」



そこで沖田が衝撃発言をする。



「ところで先輩」
「ん?」
「もう1講始まりますぜ」
「は?!」



話に盛り上がり過ぎていてすっかり授業のことを忘れていた。ちょ、どうしよう?!焦る私の横でのんきに沖田があくびをかきやがり始めるから本気で殴ってやろうかと思った。ぐっとこらえてオーブントースターから冷えたトーストをとると口に含んだ。サクサク感がない。



「先輩プレゼントなんですけど」
「待ってそれどころじゃないから、やばい、」
「今日1日くだせぇ」
「いやだから、時間がな…は、なに?1日?」
「1日だけでいいんで」
「考える時間?」
「いや、プレゼントで」
「え、今日授業びっちりなんだけど」
「かわいい後輩の頼みじゃねぇですか」
「かわいくないし」
「ひでぇや」
「他のものにしてよ」
「それ以外はいらねぇです」
「なんじゃそら」



これまた温かかったコーヒーをのどに流すと、新聞のテレビ欄をみる沖田が目に入った。どうやら本気らしい。



「あ、これから先輩の好きな俳優テレビ出ますぜ」
「えっうそ」



こうしてあっさりつられた私は沖田の誕生日を一緒に過ごすというなんとも平凡な一日を過ごした。晩御飯はちょっと豪勢に出前寿司をとった。
次の週、今日の休みが響いて苦しむはめになった私をみてなんとも楽しそうにした沖田のあの顔を一生忘れない。また来年「殴ってやる」って言う。意地でも言ってやる。心に決めた。






13.0720
遅ればせながら、おめでとうございます


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