へぇ、人間って成長するもんなんですねぇ。意味深なこの発言の意図は知らないふりをする。 「なんか文句ある?」 にらみながら中身の少ないケチャップを手に取る。我ながらうまくできたオムライスが物言わず待っている。そうだ、せっかくだしケチャップで笑顔でも書いてあげよう。それがいい。目の前に座るやつの存在を忘れそうなくらいのできばえだ。鼻歌でもうたってやろうか。軽いケチャップの容器を軽く振り、ふたを開けた。よし、口は書けた。右目も上出来。あとは左目。 「あんならインスタントラーメンでも食っとけば」 ブボッと音がして、左目が破裂した。…惨い。ケチャップだから余計に。ひきつった顔で固まる私を沖田が笑う。ばっかみてー、と笑う沖田のオムライスにはきれいになみなみに引かれたケチャップ。なんなの。ねぇ。私悪いことしてない。 「それもいいすけど」 いいのかよ。じゃあ今度から沖田の分の晩御飯はインスタントラーメンにしよう。 「じゃあこのオムライスどうすんです?」 「私が食べる」 当たり前のように言い切ると、げっ、と沖田の顔がゆがむ。だってごみ箱に捨てるの勿体無いじゃん。食べるよ。 さて、いただきます、合掌。スプーンで崩した卵から覗くオレンジ色のチキンライス。 「これ以上見苦しくなってどうするんでさぁ」 ぱくり。味もなかなか。のはずなのにテンションが上がらないのはなんでだろう。オムライスのカロリーってどれくらいだろう。こっそりおなかを盗み見る。…最近、今まで以上いでてきたんだよなぁ、下っ腹。 「…そうですね」 「否定しないんすか」 「私が一番よく知ってることだからね」 「しおらしいのも気持ちわりぃ」 「はぁああ?ウインナーのどに詰まらせて死ねば?!」 「ウインナーのどに詰まらせて死ぬって発想が幼稚なのか卑猥なのかはっきりしてくだせぇ」 「本気で死ね」 「俺はいつだって本気で生きてたらいいのになぁ」 ふざけてる。明らかにふざけて生きてるよお前。 「けっ。まずいご飯食べたくなかったら料理当番代わってよ」 「やなこった」 「パンナコッタ」 「なんてこった」 「お後がよろしいようで」 13.0505 ■ |