old log | ナノ
ああ、ごめんなさい、私はもうあなたの元へ帰ることは出来そうにありません。もう悲しみで流す涙すら出せる力はないのです、ですが私が今瞳から零している透明なものを止められる力もないのです、だから泣いているのです、どうやら。地面へと染み込む涙とは違って、粘性のある血液という液体はいつまでも地を這うだけで、広がって行くだけなんですね。こんな状況で考えることなのかはわかりませんが、まあ私は常日頃から考えていたのですが、粘性があるものって、液体って扱いでいいのでしょうか。だって液体、例えば水が乾いたところで何も残しはしませんが、血液は乾くと塊が残るではありませんか。




「そんなことを考えられるならまだ死なないだろうね」
「雲雀、さ」
「ああ、もう余計なこと喋らないで」




怪我に障る。と言いながら大分乱雑に自分の衣服を破ると、その行動からは予想も付かないほどに繊細に出血の一番多い腹部の傷へと巻き付けました。珍しくあなたが優しいので、不覚にもときめきました、そう呟くように話すと、君が死ぬと僕の楽しみがなくなるからね。今は優しくでも何でもしてあげるから、その後に言葉は続きませんでしたが、どうやら私には理解出来ているらしく、脳裏には彼といつだったか戯れに戦闘をした時のことが浮かばれました。これが走馬灯とやらではないことを祈るばかりです。




「綱吉がね、最後まで君をこの任務に就かせるのを渋ったんだ」




…何故?確かに、私はあの方の足元にも及びませんが、それなりに信頼はされていると、それはやはり都合の良い話だったのでしょうか。あまりにも訳がわからないという顔をしていたのでしょうか、呆れたと言わんばかりの溜め息が、一つ。




「君の頭は僕の想像以上に詰まっていないのかい?」




もしかしたら彼は顔をしかめていたのかもしれませんが、その時にはもう身体は地面から離れていて、ワォ、随分軽いねと意外そうな声は頭上からしていました。次いで聞こえた着くまでは一言も発しないでよ、という台詞はその時額に感じた柔らかな温もりと同等の温かさで私を包んだのです。私が何か返事をしたのかどうか定かではありませんが、生涯、その感触を忘れることはないということは、確かであると言えます。





Freundschaft auf die offne Stirn,



(20100819:額なら友情)

フランツ・グリルパルツァーの「接吻」より


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