∴ 黒子と病室の彼女△ ※ちょっと注意 「この頃桜が好きだなぁって思うよ」 「前は嫌ってましたよね、花びらがうざいとか」 「うん」 「不思議ですね」 「そうだねぇ」 「きれいですよね、桜」 「うん、そうだね」 「ここからは見えないんですね」 「そうだねぇ。この辺りにもなんでかないの、桜」 「残念ですね」 「だからかなぁ」 「え?」 「中学の時みんなで見た桜が忘れられないよ」 「…はい」 「見たいなぁ。見れないと見たくなるね」 「また今度見に行きましょう」 「…うん、そうだね」 「行けるといいなぁ、もうちょっとよくなったら退院できるみたいなの」 そうして、私は彼を苦しめていたのかもしれない。何も知らなかった私の横でいくつか春が通り過ぎていった。彼は今も私に会いにくるけれど、きっと、みんなで桜を見ることはもう叶わないのだと思う。悟ったのは、もう少しで今年の春とも、この病室ともお別れという頃だった。 あとがき |