※糸色家捏造










「『サンタさんへ、おとうとがほしいです。みこと』」

 勝ち気な妹がわざわざ戸棚の中から見つけたというそれは、子供に愛と夢を与える赤い服を着た恰幅の良い髭の老人に宛てた手紙というよりは寧ろ七夕の短冊に近く、時の経過を感じさせる程に色褪せ、よれていた。

「みことお兄さまのおかげで、のぞむお兄さまはうまれたんですわ!」

 みことお兄さまに感謝なさって! と愉しそうに笑う妹に対して、弟はといえば私の方を恨めしそうに睨んでいる。

「兄さんのせいです、兄さんのせいで私は誕生日を素直に祝えなくなったんです」
「それにしても命は字が上手いな、俺より上手いんじゃないのか」

 親の仇を見つけたような表情の弟(寧ろ両親こそが望にとっての仇なのだろうが)と、こちらもやはり愉しそうな次兄。性格の違いは周囲の環境によるものだとよく言われるが、皆同じような環境で育ったはずなのにこの違いはなんだろうか。望は破天荒な次兄と気の強い妹に挟まれ、どうも卑屈に育っている傾向が見られる。まあ望の場合は、高校に入って直ぐに勧誘されたというあの変な部活の影響もあると思うのだが。なぜなら同じ兄妹に挟まれた私は望ほど卑屈ではない。

「また皆で望をいじめてるのかい? おいで、倫」
「えにしお兄さま!」

 座敷にやってきた長兄の姿を見るなり、妹は喜んで兄に駆け寄り抱きついた。妹はどうやら長兄のことがいたくお気に入りのようで、弟にはあれこれ意地の悪いワガママを言い放題だが長兄の言うことはしっかり守る。
 兄としても一回り以上歳の離れた妹は可愛いものだ。ただでさえ倫は身内の贔屓目を抜きにしても美少女であるし、尚且つ幼くして甘え方をしっかりと会得している。妹が産まれて、糸色家の中心は彼女になったと言っても過言ではない。

「縁兄さん、私はもういやです。なんでこんな日に産まれてしまったんでしょう。いっそのこと産まれて来なければ良かった」

 よく見れば弟の目は潤み、今にも涙の滴が零れ落ちそうだった。命兄さんのせいです、兄さんがあんなこと願わなければ私はこんな辛い想いをせずに済んだのに。うう、と呻いて、望はしゃがみこんだ。
 私ははぁとため息を吐く。まったく扱いづらい弟だ。何かしら慰めの言葉をかけてやるしかあるまい。その時だ。

「だめ!」

 長兄に抱き抱えられた妹が、突然叫んだ。先程まで愉しそうに笑っていた彼女は、今は弟と同様に泣き出しそうになっている。

「いやですわ、のぞむお兄さまがいないなんて!」

 りんにはえにしお兄さまもけいお兄さまもみことお兄さまものぞむお兄さまもみんないなきゃいやなの! と泣いて喚く妹に、最初に噴き出したのは意外にも長兄だった。

「はは、倫は欲張りさんだなぁ」
「全くだ、流石は絶り」
「景、それ以上言ったら怒るよ」

 腕の中の妹をあやしながら、縁兄さんは景兄さんを睨み付けた。口調は軽いが目が笑っていない所が長兄の恐ろしいところである。

「望、産まれて来なければ良かった、なんて言ってはいけないよ」
「縁兄さん……」
「倫が産まれた時もだけれど、私は産まれたばかりの望を見たとき本当に嬉しかったんだよ」
「ああ、俺もだ。もちろん、命の時も嬉しかったぞ」
「父上も母上も、それはそれは喜んだものだよ。だから、産まれてきたことを否定するような言葉は言って欲しくない」

 今日は望の誕生日で、望が世界と、私たちが望と初めて出逢った記念日なんだから。そう言う兄の言葉に、弟はぼろぼろと泣いた。言いたいことは全て兄に言われてしまったので、仕方なく私はキッチンに向かう。母の作る、望の誕生日を祝うための料理を皆のいる部屋に持っていってやろう。きっと、望も倫も泣き止んでくれるはずだ。






ハローハロー





(はじめまして世界! はじめまして兄妹!)





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