※准命





「命さんでも髭とか生えるんだね」

 目が覚めて最初に聞いた言葉がそれだった。そりゃあ私だって男だ。確かに私はそういった毛が薄い方であるが(しかし望ほどではない。あいつの毛の薄さは少年時代からほとんど変わらない)、それでも30も過ぎていれば髭くらい直ぐに生えてくる。だが、改めて指摘されると若干恥ずかしい気もするものだ。

「君だって髭くらい生えるだろう、何を今更」
「いやぁ、望先生の髭とか、一度も見たことなかったから」

 だからちょっと新鮮で、と言う彼の言葉にちくりと胸が痛む。が、顔には出さない。
 彼は望のことが好きだった。そのことを私は知っている。そして、彼が私に望の姿を重ねていることも。

「望が特殊なだけだ」

 それだけ口にして、ベッドから体を起こし早足で洗面所に向かう。顔を洗って、早く髭を剃りたいと思った。が、そうしようとする前に彼に引き留められてしまう。

「機嫌悪い?」
「……別に。離してくれないか」
「嫌です、って言ったら?」
「……」

 後ろから抱きすくめられる。私より身長の低い彼が顔を背中に埋めるようにすると、ちょうど肩辺りに彼の息があたってたまらなかった。

「いま、僕が命さんと望先生を比べたと思ったでしょう」
「……そんなことは、」
「図星なんだね」
「っ……」

 くるりと体を反転させられ、向かい合う形になる。彼の指が私の顎に触れた、くすぐったい。
 何も言えないままでいると、いきなり唇を奪われる。下からのキスは切羽詰まっていて、息を逃すことを忘れてしまう。

「っ、は、ぁ……っ、きみは、」
「まだ僕が望先生のことを好きだと思ってるんですか」
「っ……」

 部屋の中央で立ち尽くす。何も言わない私に苛立ったのか、彼は私の体を引いてベッドに倒した。

「この際だからはっきり言いますけど、僕が好きなのは命さんですよ」
「だが……」
「先生と命さんは違います。それが、うれしいんです」

 そうして再びのキス。やめてくれと言うヒマもなくて、されるがまま、為すがままだ。

「髭とか見ると、どうしても年の差とか感じるし、あんまり無理にいろいろすると、次の日命さんが辛いってわかってます」

 唇が首筋に降りていって、私は羞恥のために顔が熱くなるのを感じた。

「だけど」

 止められないんです。望先生に似ているからじゃなくて、間違いなく貴方のせいだ。

 そう言って私の首に吸い付く彼は、若くて荒々しくて普段の彼ではないように思えた。


 そんな彼には抗えなくて、結局のところ為すがままにされている私。





為すがまま




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