※命望



いくら「すきだよ」と言ってみたところで、望は首を横に振ってしまう。
「お前は私のことが嫌いなのか」目尻に涙を浮かべる弟の頭に優しく手をおくと、望は小さく声をもらした。「嫌いなわけないじゃないですか」
「じゃあどうして」柔らかな髪の毛に指を通してみる。望は目を細めた。「信じられないだけです」

「兄さんのその言葉が本当だっていう証拠がありません。嘘なんじゃないかって、どうしても疑ってしまうんです」

その答えはいかにも望らしかった。なにしろ、望は心が弱い。優しすぎる所以の弱さだ。
望が最も敬愛していた一番上の兄は、何も言わずに家を出て行ってしまった。
望は、恐れている。一人になること、裏切られることを。だから、無条件に与えられる愛情を怖がるのだ。

「疑いたければそうすればいい」望を引き寄せる。目尻に唇を寄せて、たまった水滴を舐めた。望は小さく震えている。
「信じなくても構わない」そう、私はただ与えるだけだ。与え続けて、許容量を超えても与えるのをやめたりするものか。そのまま溢れてしまった愛に溺れてしまえばいい。
だから、疑うも信じるも私は気にしたりしない。

「ただ、私は裏切らないと約束しよう」
「嘘だ」

信じられるものかと泣きじゃくる望を抱き締める。この弱々しい弟が、信じると言うことができるまでにどれほどの時間を要するかわからないし、もしかしたらそんなことは起こり得ないのかもしれない。


それでも、私が望を想う気持ちに変わりはないし、これからも変わることはない。
ただ、それだけのことだ。



信じられるものか






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命望


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