※望と可符香






「生命の誕生は素晴らしいことです」

 きらきらと瞳を輝かせて彼女は、こちらを見た。

「神様がコウノトリを遣わせて下さったんです、先生のお父様とお母様がクリスマスに頑張った結果ではありませんよ」
「どうして貴女はそう人の傷口を抉って塩を塗り込むような真似をするんですか」

 私の言葉に対して、そんなことしてませんよ、ととぼけたような反応をする。

「まぁまぁ、いいじゃないですか。せっかくのお誕生日なんですから」

 そうして彼女はまた生命の神秘が、神様の意志が、月と星の輝きが、と意味のわからないことばかり並べたてている。本当に、どうでもいい内容だ。誕生日を祝われているはずなのに、あまり嬉しくない。寧ろ憂鬱だ。

「人は神様が作っているのではないんですよ」

 貴女も年頃ならそれくらい知っているでしょうに、と愚痴れば、彼女はその笑みを更に深いものにした。

「いやだなぁ、神様以外にどうやって子どもを作れるんですか」

 私は知りませんよ、と彼女はスカートの裾を持ち、ゆっくりと持ち上げてその白くて細い足を見せつけてくる。

「なら、先生が教えてください」
「な、ふ、風浦さんっ」

 彼女は私の方に寄り、片方の手で私の右腕をとるとそのまま足に引き寄せて―――。

「なんて」

 ふふ、と彼女は笑う。本気にしました? とスカートをひらりとなびかせる彼女は本当に酷いと思った。憂鬱だ。私はただ、生徒が祝ってくれるだけでうれしいと思ってしまうのに、彼女は私にそんな気分を味わわせてくれるつもりは毛頭ないらしい。

「――だなぁ」
「え?」
「いいえなんでもありませんよ」

 彼女がなにか呟いた気がして問い掛けるが、軽く流される。
 ああ、やっぱり憂鬱だ。そう呟いたのは私だったか彼女だったか、よくわからなかった。





メランコリック
シンドローム





(何をしたところで、私と彼の関係は教師と生徒の枠を出ないのです)






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