今日は朝から最悪です、写真立てにはヒビが入ってるし、時計の電池は切れてるし、炊飯器のスイッチが入ってなくてご飯は水のままでしたし、靴紐は切れるし、カラスが無駄にいっぱいいるし、霊柩車とすれ違うし、中央線は止まるし、電車では痴漢にあうし、学校には遅刻するし、智恵先生には怒られるし、授業のために準備してた資料も忘れるし、空き時間なのに他のクラスの自習監督しなくちゃいけないし、昼休みも外に食べに出たら財布を忘れてて甚六先生に奢って貰うことになっちゃって申し訳ないし、もう本当に最悪です、酷いことこの上なしですよ。

 一通り、先生の愚痴を聞いてあげるていると、図書館の窓の外を一匹の黒猫が通りすぎた。窓を開けて、おいで、と声をかければ意外と人に慣れているようでゆっくりと近寄ってくる。黒猫を抱き上げて、その軽さと柔らかさに微笑んでいると、先生は更に悲痛な面持ちでこちらを見つめていた。

 ほら、今度は黒猫ときました。今日は不吉ですよ、そうです最悪な一日に決まっています。久藤君も私なんかの愚痴を聞くのはもう嫌なんでしょう、良いですよ別に気を使っていただかなくても。

 先生はすっかり拗ねてしまっていて、むすりとしたまま此方に視線を向けようとしない。そんなに黒猫が見たくないのかなぁと思いつつ、腕の中の温もりを手放した。

 先生、拗ねないでください、今日はとても良い日なんですから。

 何が良い日ですか、不吉そのものじゃないですか。

 仕方ないなぁ先生、これならどうですか。


 そう言って僕は先生の顔をこちらに向けると、その柔らかな唇を重ねた。重ねたと言っても、本当に触れ合うだけのささやかなもので、眼鏡の奥の先生の瞳が揺れていた。


 お誕生日おめでとうございます、先生が生まれてきた日だっていうだけで、僕にとって今日はとても素晴らしい一日ですよ。



 そう言って微笑めば、先生は少しだけ照れ臭そうにして、久藤くんが一緒にいてくれれば今日はとても良い日になりそうな気がします、と呟いた。





黒猫が通ります





(ところで先生、痴漢にあったってどういうことですか)
(あ…)
(……後で、消毒させてもらいますからね)





―…―…―

先生お誕生日おめでとう
だいすき
まだ宿直室に住んでいない設定でお願いします



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