※違うと思いたいよりも前の話




物心がついた時にはもう既にこの能力が備わっていた。
そして年を重ねる内に、その能力を隠すようになった。当たり前だと思っていた自分の能力が、異端の物であると気付いたのだ。それ以来僕は、所謂悟い子供として認知されるようになっていた。


周囲の人間は嘘つきばかりだった。喋っていることと思っていることは違う。僕は常に周囲の人間の醜い嘘や感情の中にいた。そんな僕の唯一の逃げ道が、今思えば本だったのだろう。本は、嘘をつかない。

相手の心が読める以上、相手が感動する話を作るのは簡単なことだった。そして僕の物語を作る才能はどんどん向上し、相手の思考云々に関わらず、万人が感動する話を作ることが出来るようになっていた。それと同時に、自分の能力のコントロールもつくようになり、それまではだだ漏れ状態だった周囲の思考も、自分で読み取りたい時だけ読み取ることが出来るようになった。






「――そうして、嘘しかつけなかった猫は、ようやく真実を口にすることが出来たのです」

僕の目の前でぼろぼろと大粒の涙を流す先生をじっと見つめる。そして、彼の心を読むために意識を集中させる、が、やはり何一つ見えて来なかった。

「久藤君、今、私の心を読んだでしょう、」
「っ、いいえ、読んでいませんよ?」

ぐずぐずと鼻を鳴らして言う先生に、にっこり笑んで答える。正確には、読めなかった、と言った方が正しいのだけれど。やはり、先生は勘が良い。

「そう言っておきながら、本当は皆の心も読めているんでしょう?」
「そんなことはないですよ、」

本当はそんなことはある、だからこそ先生にこんなに興味を惹かれているのだ。
何故、先生の考えていることだけが読めないのか、それはわからない(恐らく先生の言う心の鎖国が関係しているのだろうと思うが本当にそれだけなのかは不明だ)。
目元をこする先生、その泣きはらした赤い目が、酷く扇情的に映る。よく見れば、先生は白くて細い。そこらへんの女子よりも綺麗な肌をしているんじゃないだろうか。なんて、自分は先生――しかも男――相手に何を考えているんだろう。
だけど僕は知りたい、

「先生、すきですよ」
「く、久藤君、」

だから、僕に心を開いて下さい、と心の中で呟く。
ねぇ先生、僕が本当は皆の心も読めてあなたの心だけが読めないのだと、だからこうして嘘をついてあなたの心を読もうとしているのだと言ったら、あなたは僕をどういう目で見ますか?

たちが悪い



酷いことをしているのはわかっている
だけど、この気持ちは止められない




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