※違うと思いたいより前でたちが悪いより後の話
別に読んでなくても平気
先生が笑うと、それがとても嬉しい。
でも、その笑顔を向けられているのが自分だけではないことも知っているから、それが酷く辛くもあり、憎らしくもある。
そんな他の人に笑うくらいなら、さっさと僕に心を開いてくれれば良いのに。
そうすれば、こうして先生に心が伴わない「すき」という言葉を紡ぐこともなくなるし、気が付いたら先生を視線で追っていた、なんてこともなくなるに違いない。
「先生、すきですよ」
「久藤、君」
放課後の図書室は僕と先生だけの世界だ。
読書離れの傾向は著しく、生徒や教職員が寄り付くことは滅多にない。それを良いことに、僕はここぞとばかりに先生に接した。
僕の一挙一動に表情をころころと変える先生が愛しくてたまらない。
……いや、愛しいなんて思っていない。ただただ興味がつきない、それだけのことだ。
「先生は、僕のことが信頼できませんか?」
「あ、いえ、そんなことは、」
先生はそんなふうに否定するが、ならば早く心を開いてくれよと僕は内心舌打ちをする。
じっと先生を見つめると、先生の顔が赤くなる。肌が白いから、その色の変化がはっきりと見てとれて、僕はくすりと笑みをこぼした。
先生はどんなことを考えているんだろう、何を感じて、今こんなふうに僕と接しているのだろう。先生は、僕のことをどう思っているんだろうか。
そんなことばかりを考えながら、僕は先生と向かいあう。少しくらいは、心を開いてくれているのかな。全く読み取れない先生の心。気になって、仕方がない。
ねぇ先生、こっちを見て下さい。
僕を見て、笑って下さい。
他の人なんてどうでもいいから、僕に心を開いて下さい。
僕のことを、好きになって。
屈託のない笑顔に
(苛ついてしまうのは、どうして)
―…―…―
それが恋だと気付かない酷い男・久藤君。
自分設定
・久藤君は人の心が読めるけど、心の鎖国中の先生の心だけが読めないので頑張って先生の心を開かせようとしている