※鼓膜に響いたの久藤君視点



放課後の図書室、僕と先生以外の誰もいない空間、日が窓ガラスを突き破って差し込む。
ぼんやりと、オレンジの光に染まりつつあるページに目を通していると、かつ、と先生の歩く音が聞こえて視線を上げた。

「久藤君は何時までここに?」
「あ、もしかしてもう下校時刻ですか?」
「いえ、そういう訳では無いのですが…」

控えめな先生の物言いに、ならもう少しここにいます、と告げる。少しでも先生と一緒にいたくてそう言ったのだが、先生の考えていることは読み取れないので、もしかしたら僕の言葉は迷惑だったのかもしれない。現に、先生はこちらから目を逸らして、直ぐに僕の近くを離れてしまった。



手元の本を閉じて、カウンター近くの壁掛け時計に目を向ける。そろそろ閉館の時間か、と本を元々置いてあった棚に戻し、カウンターに歩みよる。
カウンターで頬杖を付き、近づいた僕に気づくことなく外を眺めている先生。ふと、その左腕に目がいく。日に焼けていないその白い腕は細く、今にも折れそうな弱さが目立つが、それ以上に――その手首に巻かれた、真っ白な包帯が、目に入った。その瞬間、僕は思わず先生の腕を掴んでいた。

「――先生、」

先生の驚いた顔が目に映る。しかし先生が実際に何を思っているか、それはわからない。先生は僕に(正確には周囲の人間に)心を開かないからだ。そう、僕のこの能力が、唯一通じない相手。

「先生、どうしたんですか、ここ」

そう言って、先生の左腕を強く握る。その包帯の下で傷が開いたのだろう、白に朱が滲んでいく。

「……」
「先生、」

先生の手首に巻かれた包帯を、しゅるり、ほどいていく。その下から現れた、幾本もの線が、酷く痛々しい。

「…どうして、先生」
「ぁ…」

先生の手首を引き寄せて、そこに唇を落とした。引かれた線に舌を這わせる。鉄の味、すこし甘く感じるのは気のせいだろうか。

「っ…!」
「痛いですか?」

小さく呻き声を上げる先生に、わざわざ分かりきったことを問いかける。

「先生、」

貴方のことが知りたい、そう思う気持ちは、自分の能力が通じない唯一の相手に対して沸き起こった、ただの好奇心で済ませて良いのでしょうか。




違うと思いたい




(これは恋なんかじゃないって)



―…―…―

実は准→←望でした^^
自分設定
・久藤君は人の心が読める
・でも先生の心は読めない


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