※優しさなんて欲しくないの続き







 気がつくと、辺りには誰もいなかった。
 服装の乱れも見られなかったのでもしかしたらあれは夢だったのかもしれないと思ったけれど、立ち上がった時に感じた下腹部の違和感がそれを否定した。

 生徒に犯された。その字面だけ見ればなんと滑稽なことだろう。だがそれは実際に自らの身に起きていて、少なくとも鼻で笑うようなことはできなかった。

 宿直室に戻ると奥から交と小森さんの声が聞こえる。私の姿に気付いたのか、遅かったね先生、と柔らかな声で話しかける彼女に、いろいろとやらなきゃいけないことが残っていましたから、とだけ答えてから風呂場に向かった。


 歩く度に、中に出されたものがどろりと零れおちる感覚があって、頬が熱くなる。しゅる、と帯紐を抜き衣服を脱ぎ捨て、浴室にこもった。シャワーのコックを捻り、少し熱めの湯が出るのを待って頭からかぶる。
 どうしてあんなことになってしまったのか、自分には見当もつかなかった。湯が熱いからか、身体の冷たさが際立つような気がした。



『好きでもない生徒に犯されて』

 確かに彼はそう言った。つまり、自分は彼に嫌われていて、その結果があの行為なのだと、そういうことか。

「っ…うっ……」

 身体中に感じる痛みからか、嗚咽が漏れる。これは、叶わぬとわかりきった恋をしてしまった仕打ちなのだろうか。嫌われているとわかってしまった、それなのに、中に残された彼の名残が愛しいなんて狂っている。

「ぁ……っ…うぁ…」

 もう涙なのかシャワーなのかよくわからない。なるべく声が響かないように手で口を覆うが、それもあまり意味がないようだった。

「……き、…すき…っ…くど…くん…っ」

 好きな人に嫌われているとわかってしまった挙句、強姦されてしまって精神的にも肉体的にもボロボロだというのに、好きな人と身体を繋げることが出来たというその事実が嬉しくて仕方がない。あぁ、そんなふうに思ってしまう自分はやはり狂っている。

 嫌われていても構わない、それでも私は彼が好きでどうしようもないのだ。



嫌いならばそれでもいい




(例えそれが叶わぬ恋でも)






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優しさなんて欲しくない 続き


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