別に意味があったわけではない、と思う。
ただ何となく寂しくて、何処か知らない場所に行きたかった。
午後11時の駅前。こんな時間の電車に乗ったって、別に何処か遠くに行けるわけではないけれど、そこは何となく、雰囲気で。
駅のホームに降りて、数分後にはここを通過するであろう電車を待つ。既に2本ほど電車を見送っていた。それもそう、何となく雰囲気で。
ぷしゅう、と音を立てて、強い風を起こして、その鉄の箱はゆっくりと口を開ける。足をその舌に乗せるため伸ばそうとするけれど、意思と反して踵も爪先も地面に接着したまま動かない。
やがて鉄の箱はその口を閉じて、加速して視界から消えた。
「今ので終電ですよ、」
背後から声をかけられて、ふっと振り返ればそこには教え子の姿。乗らなくて良いんですか、と尋ねる彼に、ただにっこりと笑いかける。
「いつからそこにいたんですか」
「先生の姿を見かけてからです」
「こんな時間にどうしたんです」
「先生こそ、何処に行こうとしてたんです」
「何処か知らない場所に行きたかったんです」
結局、寂しくて仕方がなかったのでやめましたけど。
そう言って笑うと、彼は微笑みながら囁いた。
「僕と一緒でも、寂しいですか」
午前11時、駅前にて
私は、貴方が来るのを待ってたのかもしれません。
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